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KYOTO EXPERIMENT 2012 フリンジ“PLAYdom↗”関連企画 「公開プレゼンテーション@フリンジ“PLAYdom↗”」レポート

12.10/22

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10月21日(日)に京都の元・立誠小学校 自彊室(じきょうしつ)にて行われた、「公開プレゼンテーション@フリンジ“PLAYdom↗”」に参加しました。

“PLAYdom↗”とは、京都国際舞台芸術祭実行委員会が主催する、国際舞台芸術フェスティバル「KYOTO EXPERIMENT」内のフリンジ・パフォーマンス企画で、今年で3年目を迎えます。過去3年とも演出家の杉原邦生氏がコンセプターを務めていましたが、来年の開催に向けて新たなコンセプターを募集していました。最終選考に残った3名による公開プレゼンテーションを見届けようと、会場には50名程の観客が訪れました。


進行:橋本裕介氏(KYOTO EXPERIMENTプログラムディレクター)
ゲストコメンテーター:伊藤達哉氏(ゴーチ・ブラザーズ)/中村茜氏(プリコグ)/杉原邦生氏(演出家/KUNIO)

プレゼンター:大原渉平氏(劇団しようよ/京都)/高間響氏(笑の内閣/京都)/羽鳥嘉郎氏(けのび/東京)

会の冒頭で、進行役の橋本さんは「フリンジ企画を3年も続けていると、すでに完成されたものになってしまい、新しい人たちが参加し辛いものになってきていると感じています。思い切って公開プレゼンテーションという経験をしてもらうことで、フリンジ企画がより面白いものになって欲しいと思います。」とコメント。果たしてどんなプランが飛び出すのか、期待が高まります。
プレゼンテーションの時間は各10分間。プレゼン後、ゲストコメンテーターによる質問タイムが設けられます。

■大原渉平氏(劇団しようよ/京都)によるプレゼン

京都に、舞台芸術を知らない人がまだまだたくさんいることが歯がゆく、もったいないと感じる。そういった人々を舞台芸術に巻き込むために、「路上パフォーマンス」を提案したい。この企画で、5年後の観劇人口の増加を目指す。京都市内にメイン会場(劇場)とサテライト会場(路上)を設け、全国からカンパニーを招聘して両方で上演してもらうことにより、お客さんが路上から劇場へと流れていく構図を作る。京都は、五条大橋や鴨川大橋など、歴史的・文化的に意味のある場所が多いので、路上パフォーマンスの内容に反映させるという手もある。気を付ける点としては、近隣住民への影響等が考えられるが、企画サイドがカンパニーサイドに寄り添い、バックアップを丁寧に行えば問題はない。


現職のコンセプターである杉原さんより、「なぜ“全国”からの招聘なのか?」「京都でこの企画を行う意義は何なのか?」という質問が挙がった。それに対して大原さんは、「路上パフォーマンスという共通項に重点をおいて、全国規模で集めた方がより面白いものになる」と回答。また、自身も路上パフォーマンスを見るのが大好きという中村さんからは、「巷に溢れている路上パフォーマンスとどう差別化するのか?どういう視点でアーティストを選ぶのか?また、上質な路上パフォーマンスを行うことは非常に難しく、同時に劇場でも作品を上演することはアーティストにとってかなりの負荷となる。路上だけに集中してもらった方が良いものになると思う。」との意見が挙がった。

■高間響氏(笑の内閣/京都)によるプレゼン

「市民は、舞台芸術に対して無関心だ」と言われるが、私は寧ろ「敵対視している」と感じる。市民の理解と興味を得るために必要なことは、「参加カンパニーの選び方が公平に見える」、「市民が自分で作品を選んだように思える」、「ゴシップ(ドラマ)を作る」の3つ。それら全てを叶えるプランが「フリンジ総選挙」。まずカンパニーやアーティストがフリンジ選挙に立候補し、街頭演説やポスター、ビラ配りなどの選挙運動を行う。時にはゴシップをわざと起こし、スポーツ新聞のように煽り、市民の関心を引き付ける。市民が自分で選んだ公演であれば、興味を持って観に行くはずであり、更に民意という大義名分があるので、資金面も行政から集めやすい。選挙とは、政(まつりごと)だ。とにかく、お祭りのように派手に盛り上げたい。


杉原さんより、「ディレクターのいる企画に公平さは必要ないと思う。また、知りたいのはフリンジ企画をどういう場にしたいのかであって、どう選ぶのかではない。」と厳しい意見が。一方で中村さんからは、「高間さんのキャラクター性を生かして選び方のフォーマットを作ることに魅力がある。政治のパロディは、内輪向けにならないよう注意すれば、面白くなる可能性を秘めている。」と、選び方自体をひとつの企画と捉えたコメントがあった。しかしやはり、どういう場にしたいのか、ということは必要になってくるようだ。

■羽鳥嘉郎氏(けのび/東京)によるプレゼン

コンセプトは、「劇は使える、ダンスは使える」。他の芸術は、その技術やノウハウが日常で使えるものになっているため、ジャンルの発展に貢献している。舞台という制度や、作家性ではなく、認知の回路を試すことを軸にして、パフォーマンスを捉える枠組みを設けたい。コンペティションではなく、公に集中的に思考する状況がフリンジ企画でこそ設置できる。初年度は、ワークショップとインストラクションを含む作品を軸としてプログラムし、「日常で使えるかもしれない」ワークショップを開催。方向性を強く打ち出すために中堅のアーティストをラインナップし、次年度以降は、問題意識を踏まえた若手が登場するような支援プログラムにしていきたい。


「やりたいことがはっきりしているので、分かりやすかった。」と、ゲストコメンテーターの意見が概ね一致。その上で伊藤さんより「今までの3年間とは方向性の違うプランだが、本プログラムとの関係性についてどう考えているのか」という質問があり、羽鳥さんは「フリンジだからこそのワークショップだと考えている。若手のアーティストを育て、そこから本プログラムにも繋げていく」と回答。「育成」という視点が入っていることが好評だった。人の賑わいが求められておらず、本当に興味のある限定された人しか見ない可能性がある、という点が課題として挙がったが、羽鳥さんは宣伝面等でカバーしていくと答えた。また、中村さんは「この企画の良さは、思考の深みをフェスの中に獲得するというところにある。初年度は大衆性について重視せず、肝の部分をしっかりと行い、2年目、3年目へと繋がるプランをたてていければ。」とコメントした。

【参加者からの質問】

――プレゼンテーション後、プレゼンターの3名への質問や、フリンジ企画全体についての意見等が挙がりました。

本来、フリンジとは正式なプログラムに対するアンチテーゼであり、演劇祭の外で勝手に行われるものだが、KYOTO EXPERIMENTのフリンジにはルールがありそれに選ばれなければならない。そのことを踏まえ、今後フリンジフェスティバルをどのように育てていきたいのかを聞きたい。フリンジの良いところは、「面白くない」とお客さんが罵倒する自由もあるところ。そういった自由を持つことによって、当事者性が出てくる。また、「全ての作品は必ず心に残るはずだ」という思い込みを打破することも出来る。

橋本:自分には参加資格がないと感じている若い世代が多い。本来、公募することは本意ではなかったが、公開プレゼンテーションをすることで「自分たちでも状況を作れる」と考えるきっかけになってくれればよいと思う。将来的に、フリンジは徐々に全く別の組織になって、何かを勝手にやっている、という状況になることが望ましい。

KYOTO EXPERIMENTは、本プログラムが挑戦的なため当たり外れが大きく、フリンジ企画に救われていると思う。手の届く範囲の、誰でも共感できる要素が入っている。今回プレゼンをされた3名も、お客さんに近づいて手を差し伸べる感じだったので良かった。京都にはそういうフリンジ企画が欲しいと思った。

橋本:これまでの多くの芸術文化事業は、お客さんが面白く思うかどうかが不明なまま行政の資金が投入されてきた。「一体誰が選んでいるのか」ということをはっきりさせるため、フリンジも独自の視点を持って選んでいる。これが発展していき、その視点以外にもこれが面白い、となってフリンジ的なものが勃発していくことが大事。「面白いものしかやってはいけない」となれば、似通ったものが増えていくし、表現の自由にも関わってくる。

今一度、KYOTO EXPERIMENTでフリンジ企画をやる意味を聞きたい。何故、京都なのか。京都を今後どうしていきたいのか。

羽鳥:KYOTO EXPERIMENTは日本で2番目に大きな舞台芸術のフェスティバル。その規模と、浜松や三重、名古屋からの距離が近く、全国から集まりやすい位置が魅力。

高間:自分は京都で住んでいて、京都の演劇に愛着があり、なんとかしたいと思っている。京都にはお祭りがたくさんあるが、KYOTO EXPERIMENTも京都の代表的なお祭りにしたい。

大原:京都に生まれた責任がある。すぐそばに舞台芸術の可能性があったので、そこで暴れたいという思いがある。また京都は、歴史的な建物等が劇場の外にあることに必然性を感じる。

――最後に橋本さんより、プレゼンターの3名に対し、本日のプレゼンを踏まえて課題が与えられました。大原さんには、「京都の観劇人口の具体的な認識について」。高間さんには、「プランの3年後、5年後の詳細なプロセス」。羽鳥さんには、「自分のプランを、実際に出資する人々にどう説明するのか」。課題に取り組んだ結果も含め、来年のフリンジ企画がどうなるのかが決まります。


KYOTO EXPERIMENTという京都を背負った芸術祭。フリンジ企画も、京都で行う意味を強く求められていたことが印象的でした。その土地に住んでいる人々に舞台芸術を理解してもらうには、ただ面白いものを上演すれば良い、ということではなく、きちんと明確な意図を持って何をするかを決めることが重要です。更に、参加者からの質問で「フリンジの在り方」について発言があったことで、「舞台芸術祭」そのものを改めて考えるきっかけにもなりました。

日々、それぞれのカンパニーやアーティストが劇場にお客さんを呼ぶために努力を重ねていますが、「舞台芸術祭」という場こそ、舞台芸術と普段関わらない人々を呼び込む絶好のチャンスだと思います。しかし、プレゼンターの発言にもありましたが、自ら舞台を創っている関係者の中でも、関心が薄かったり、自分には参加資格がないと遠ざかったりしてしまう人々が多いことが少し残念です。まずは内側から一丸となることも必要ではないでしょうか。

ところで、今回のプレゼンテーションで最終選考に残った3名はいずれも演出家(=アーティスト)という肩書きでした。募集要項では「制作者」や「プロデューサー」も対象となっていたので、「制作手帖」としては、「制作者からの応募があったのか?」がとても気になりました。イベント終了後、その辺りのことを橋本さんへ質問してみました。

橋本:もちろん、制作者からの応募もありましたよ。ただ、結果的に僕らが求めている新しいフリンジの可能性を強く感じさせてくれたのは演出家である3人でした。ひとつの傾向として、制作者から発案された企画は、既存の企画を見極め、非常に現実的なものを前提としてそこから逆算されたようなものが多かったという印象があります。

確かに、最終選考に残った3名のプランは、どれもアーティストらしい自由な発想によるもので、さらにそれぞれが全く違う方向性を示していました。しかし、制作的視座からこそ生まれる新しい発想も間違いなくあるはずです。こういったクリエイティブな場にもっと多くの若い制作者が登場してくることを望みます。そうすることで、舞台芸術の多様性を広める道筋は、まだまだたくさん生まれてくるのではないでしょうか。

(取材:吉澤/郡山)

今回のプレゼンテーションの選考結果は、下記サイトで確認できます。

公開プレゼンテーション@フリンジ「PLAYdom↗」のご報告|KYOTO EXPERIMENT 2012


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