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オープンセミナーvol.2ケーススタディ 『独立系映画の売り方から学ぶ~映画配給会社東風』レポート

12.10/16

10月1日(月)に芸能花伝舎にて行われた、Next舞台制作塾の主催するオープンセミナーvol.2「ケーススタディ『独立系映画の売り方から学ぶ~映画配給会社東風』」に参加しました。

第一部:映画『演劇1』特別試写会

東風が配給する映画『演劇1』(監督:想田和弘)を鑑賞。劇作家・演出家の平田オリザさんと彼が主宰する劇団「青年団」に密着した、2時間52分に渡る長編ドキュメンタリーです。稽古風景に事務所での仕事の様子、仕込みやバラシの様子や、平田さんが「演劇とは何か」といった持論を語るシーンなどを映しており、舞台関係者なら興味深く鑑賞できること間違いなしの内容でした。(もちろん、演劇を知らない人も「ドキュメンタリー」として十分楽しめるものになっています。)ちなみに、同映画は2部作で、『演劇1』『演劇2』合計で5時間42分という見応えたっぷりの大作です。
10月20日(土)から東京・渋谷シアター・イメージフォーラムで公開されます。

『演劇1』 (C)2012 Laboratory X, Inc.

映画鑑賞後には、監督の想田和弘さん、青年団演出部の深田晃司さん、青年団制作部の木元太郎さんを迎えたティーチ・インが行われ、映画に対する様々な質問や感想が挙がりました。


第二部:ケーススタディ
『独立系映画の売り方から学ぶ~映画配給会社東風』

講師:木下繁貴氏(合同会社東風)
1975年生まれ。大学中退後に日本映画学校へ入学。 卒業後フリーの映像制作を経て、 株式会社バイオタイドにて、映画、番組、VPなどの制作・プロデューサーを担当し、 同社内の映画配給宣伝部新設に伴い、業務の中心を移していく。 2009年3月バイオタイドを部署まるごと退社し、映画配給宣伝会社・合同会社東風を設立。 主にドキュメンタリー映画を中心に年間8~10本ほどの作品の配給宣伝を行う。 社内では主に企画・劇場営業を担当している。

ゲストスピーカー:想田和弘氏(映画作家)
1970年栃木県足利市生まれ。ニューヨーク在住。 台本やナレーション、BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。 『選挙』(07年)でベオグラード国際ドキュメンタリー映画祭グランプリ、 『精神』(08年)で釜山国際映画祭、ドバイ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞、 『Peace』(10年)で香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を受賞するなど、国際的にも高く評価されている。 10/20(土)には最新作『演劇1』『演劇2』の劇場公開を控えている。

深田晃司氏(映画監督/青年団演出部)
02年から04年までに長短編3本の自主映画を監督。05年青年団演出部に入団、青年団の俳優とともに映画製作を開始する。06年に『ざくろ屋敷』、09年に長編映画『東京人間喜劇』を発表。最新作『歓待』で第23回東京国際映画祭日本映画「ある視点」部門作品賞。現在新作『ほとりの朔子』(二階堂ふみ・鶴田真由主演)の撮影を終え、来年春以降の公開に向け仕上げ作業中。

舞台の「制作」とは少し違う立ち位置の、映画の「配給宣伝」とは、一体どのようなものなのでしょうか?
社会派ドキュメンタリー作品を数多く手がける映画配給会社「東風」の木下繁貴さんより、映画が出来上がってからお客さんに届くまでの流れや、気になる収支のことなど、配給宣伝の仕事についてお話しいただきました。 ■劇場公開までの大まかな流れ
製作者から、劇場公開したいという打診を受ける。
公開時期の約6ヶ月~9ヶ月前…メインで上映する映画館との交渉をスタート。

木下:あらかじめ、「この映画にはどういったお客さんがどれぐらい来るのか」を予測して上映期間を決めます。時間帯も、シニア層なら「モーニングショー」(朝上映)、若者層なら「レイトショー」(夜上映)、ある程度幅広く入りそうなら「ロードショー」(昼上映)というように、決めていきます。
公開4ヶ月前…メインビジュアルや試写状を製作し、マスコミへの試写を開始する。

木下:マスコミ関係者のリストを常に最新にしておくことが重要です。東風では、約2500通のリストを管理しています。これが配給会社の財産ですね。(木下)
公開2~3ヶ月前…本チラシやポスター、予告編、公式HPの製作を開始し、配布。メディアにインタビュー取材を依頼し、記事を書いてもらう(フリーパブリシティ)。

木下:記事が載る媒体として、WEB、新聞、雑誌などがありますが、俳優のいないドキュメンタリー映画は、実は映画雑誌には取り上げられ辛いです。ただし、新聞には強い。映画の中身が抱えている問題に関心のある記者に取材をしてもらうことが出来ます。演劇でも、社会問題を扱っていると新聞に載りやすいですよね。
また、映画のチラシは、置き場所がB5サイズに合わせているので、B5で作成します。正式な公開日は約1ヶ月前に決まるので、仮チラシ、本チラシ(日付なし)、本チラシ(日付あり)と時間差で3種類作成します。
公開1ヶ月前~直前…メディア露出期間。公開期間には舞台挨拶やトークイベントなどを行う。
公開1ヶ月後…大阪・名古屋などでの公開
公開2~6ヶ月後…全国各地のミニシアターなどで公開

木下:だいたい20か所~40か所で上映します。東京でのお客さんの入りによって、地方でどれだけ上映出来るかが決まります。
6ヶ月後以降…全国各地で自主上映会

木下:劇映画の場合だと、劇場公開後半年が経過するとDVD化しますが、ドキュメンタリーの場合は、映画館ではないホールなどでの自主上映用に上映素材を貸し出します。1回3万円~8万円という金額で、利益率が高く、ここでなんとか収支のマイナスをプラスにもっていきます。
■映画の収支について

≪収入例≫ ・都内メイン館(動員数4500人と想定)…300万円
・全国上映(動員数5500人と想定)…350万円
・物販収入…約90万円
・自主上映会…約300万円
・DVD販売…約130万円
・テレビ番組販売(CS放送など)…約80万円
合計:約1250万円
≪支出例≫ 配給宣伝費:約500万円
※配給宣伝費捻出のパターン
(1)出資会社が集まり、その出資金から製作費と配給宣伝費を分ける
製作委員会形式。
(2)製作者が負担する。
(3)配給宣伝会社が負担する。

木下:予算書を作成し、製作者にきちんと確認してもらい進めています。このケースでは都内メイン館と全国上映併せて1万人動員というまずまずの状態で計算していますが、収入の1250万円から、配給宣伝費500万円とここには記載されていない製作費も回収しなくてはならいので、恐らくマイナスになりそうですね…。ドキュメンタリー映画は、新聞を読むシニア層には強いのですが、なかなか若い人に観てもらえないため、どんどんお客さんが減っています

二部- 映画業界の危機と、今後の展開

木下:今、インディペンデント映画は、業界始まって以来の激動と言われています。例えば、これまで映画はフィルム上映が主流でしたが、どんどんデジタルに変わってきていて、そのデジタル上映のための設備費用には1000万円ほどかかるため、お金のないミニシアターが次々に閉館していっています。死活問題ですね。 ――ここで、ゲストスピーカーとして、映画監督の想田和弘さんと深田晃司さんが加わりました。実際に映画を製作している2人のお話から、現場の実態が見えてきます。
深田:ドキュメンタリー映画は、社会問題を取り上げていたり公共性が高いため自主上映会の声がかかりますが、劇映画の場合はそれがないので、例に挙げたパターンだとその分収入が減って900万円くらいになります。宣伝費が製作費の半分くらいだと考えると完全に赤字です。製作段階では、スタッフにわずかなお金しか払えず、監督、プロデューサーは持ち出しになります。宣伝のためトークイベント等に参加すればその間他の仕事は出来ず、地方に行けば交通費もかかる。お客さんが「ヒットしているから儲かっているのでは?」と思っている映画でも、よほどの大ヒットでもない限り、お金はどんどんなくなりますね。
想田:海外の映画祭に行くと儲かりそうなイメージがありますが、実際はなんだかんだでお金がかかり、その間他の事も出来ないので、映画祭貧乏という言葉もあるくらいですね。行けば行くほど貧乏になる。しかし、マーケットを世界に広げる機会ととらえて頑張っています。映画によって、海外に売れるもの、売りにくいものはもちろんありますが、いろんなところに網を張っておいて、引っかかるものを拾うイメージでやっています。
深田:世界的な流れとして、海外に広げるというのがありますよね。国内だけだと、製作費が400万、宣伝費が200~300万規模だととてもやっていけない。
想田:あとは、収入を増やすか、コストを下げるかのどちらかしかありません。僕の場合は、コストを下げる方ですね。ドキュメンタリーを一人で撮って、編集して、字幕を入れて、音声のミックスまで自分でやります。製作費はほぼ自分の人件費です。自分が暮らしていけるお金が回収できればとんとん、というモデル。これは、劇映画では難しいですよね。
深田:フィルムの時代よりは低予算で作れるようにはなりましたが、最低でもスタッフが15~20人は必要ですからね…。
木下:製作費が400万程度でちゃんとお給料を払おうとすると、撮影期間が3、4日になるため、その期間ずっと徹夜で撮ったり…ということもあります。

深田:映画製作の現場では3日ぐらいの徹夜などざらですね。そのため、寝不足で事故が起きるなど問題になっています。僕の現場では、労働問題を考えて徹夜はなしにしていますが、そうなるとどんなに切りつめても撮影に10日間弱はかかってしまい、1日あたりのスタッフのギャラが少なくなります。元々映画は製作するのに5000万円~1億5000万円くらい平気でかかるものです。それが、娯楽の多様化でお客さんが入らなくなったため90年代には予算規模が2000万円になり、その時点でさえ「こんなに少なくちゃ映画は作れない!」と思われていたのに、さらに落ちて500万、今では50万円なんていう製作費の場合も!こうなるともう、半分ボランティアでないと成立しませんよね。
想田:厳しいのは日本に限ったことではなくて、アメリカでも、ドキュメンタリーだけじゃ生活できないのが普通です。同時に大学で教えたり、企業等のコマーシャルを作ったり。ヨーロッパでは助成金が出やすいので、それが大きい収入源になるんですけど。アメリカは、文化には税金を使わない国なので、大きな美術館なども寄付で賄われています。民間から寄付を促しやすい制度が確立している。ただ、それだと小さいところにはお金が行かなくなり、どんどん格差が激しくなります。文化の多様性は守られにくい。
深田:ヨーロッパは、規模の大きいものと小さいものが共存しています。そうなることがみんなの利益になる、という総意がある。
想田:アメリカでは、無茶な予算組みのためクレジットカードで破産する映画会社が多いのです。プロとしては、持続可能性を考えないと。「ここまでしか入らないなら、ここまでしか使えない。」というように。とにかく1本作ればよい、という話ではないので、常にまわしていくことを意識しながらやっていかないといけませんね。
深田:みんな1本目で疲弊し過ぎて、2本目、3本目が撮れない、と言いますね。
想田:国外から資金調達するなど、別のことを考えていかなくては。お金が無いなら無いなりに、知恵を使って傑作を取るということも出来る。「映画にはこれだけお金がかかる」という先入観をとっぱらう必要があると思います。
深田:現場にいて実感するのは、日本は1950年代くらいまで、撮影所がフル回転していて、製作本数もクオリティも世界的な映画大国でした。その頃の亡霊がまだ残っているように思います。助監督は5人で、チーフ、セカンド、サードがいて…などのシステムが完成し、残り続けている。しかし、本当にそれだけの人数が必要でしょうか。例えば、人数を少なくして、その分リハーサルに時間をかけるなど、自分たちの映画にとって最適な方法を探っている人たちもいます。「自分たちのやり方」を、みんなが考えていかなくてはいけない時期にきています。
想田:方法論とも直結してきますね。どういうスタッフ編成で、どういう風に撮るのか、ということも含めての芸術性だと思います。撮影方法を変えれば、映画も変わる。映画の「作り方」は原因で、「作品」は結果だと思っています。作品を変えたいなら、方法論を変えなくては。

二部- 参加者からの質問

Q:若い世代に映画を観てもらうためには、業界としてそのシーンを作っていくことが重要だと思うのですが、映画業界全体で繋がりや仕組みを作っていける体制にはなっているのでしょうか?

木下:全国各地のミニシアター系の映画館が主催する形で、小中学生向けの映画ワークショップを行い、映画を作る面白さに触れて映画を好きになってもらい、お客さんになってもらおうという試みがあります。また、沖縄にある映画館では、高校生が3人で来ると1人当たり500円に値下げするということも。作品においても、若い人に関心を持ってもらいやすいドキュメンタリー映画を作らなければ、と思っています。
深田:劇場に若者が来ないのは、DVDやインターネットの普及も要因の一つで、それは日本だけの問題ではありません。フランスのパリでも観客数が落ちていましたが、系列を超えてどの映画館でも利用できるフリーパス制度を導入したところ、若者が気軽に行けるようになり、ここ10年くらいで回復したそうです。日本でも、覚悟を決めて映画館同士が結託する必要があるのかもしれません。


「若者層の開拓」「海外マーケットの開拓」「コストの見直し」…等々、舞台業界でもよく話されるキーワードがいくつも出てきました。リアルな数字を伴った事例が紹介され、演劇に当てはめて考えたときにも、参考になる部分がたくさんあったのではないでしょうか。参加者からも、「近いようで異なる分野の、その中でも小劇場的な立ち位置の方々のお話が聞けてよかった」という感想を聞きました。

最後に深田監督がおっしゃっていた、「映画館同士の結託」については、ぜひ舞台業界でも劇場やカンパニーの枠を超えてやっていただきたい!また、映画館が若者層を獲得すべく働きかけをしている例も出ましたが、舞台公演でも若者向けワークショップや、チケット料金の割引設定などを積極的に行なっている劇場やカンパニーがありますね。劇場に中学生や高校生が来ているのを見かけると、未来に繋がっていくイメージが湧きます。娯楽の多様化などで、映画も舞台も状況は厳しいですが、時代を悲観するのではなく、時代に合わせて戦略を立てることが大事だということを教わりました。

ご参加いただいたみなさま、木下さん、想田さん、深田さん、どうもありがとうございました!

(取材・文:吉澤)


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