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オープンセミナーvol.1 「演劇は仕事になるのか?制作は職業になるのか?」 イベントレポート

12.06/16

ゲストスピーカー:

米屋尚子(芸団協・文化芸術政策推進業務部長/「演劇は仕事になるのか?~演劇の経済的側面とその未来」著者)
加藤弓奈(急な坂スタジオディレクター/Next舞台制作塾第1期ナビゲーター)
進行役:
斎藤努(ゴーチ・ブラザーズ/Next舞台制作塾スクールパートナー)

6月18日(月)に芸能花伝舎にて行われた、Next舞台制作塾の主催するオープンセミナーvol.1「演劇は仕事になるのか?制作は職業になるのか?」に参加しました。

第一部:ゲストスピーカーによるフリートーク(19:00~20:00)

米屋さんには歴史的・世界的な観点から、加藤さんには現役の制作者としての観点から、「演劇を仕事にする」ということについてお話いただきました。

■小劇場の現状
・現在東京では、とにかく小劇場公演の数が多くその中で頭角を現すことが難しくなっている。(米屋)
・60年代は小劇場がシーンとして成り立っていたが、今は乱立しているだけで、文化として成熟していないと感じる。お客さんの選択肢を増やすためにも、制作者同士が協力して公演期間をずらすといったことも考えていかなくては…。(加藤)
・小劇場ブームの頃は、動員が2万、3万とだんだん増えていき、このままいけば仕事になるかも…といった期待感があったが、現在はそういったストーリーが見出せない。「劇団が売れて、制作者が食べて行ける」という構図が成立し難い。(米屋)
・お客さんを倍々ゲームで増やしていくことを目的としていない劇団が増えているのは事実。国内の他地域や国外でもきちんと公演を打ちたい、というビジョンの方が強いのかもしれない。(加藤)
・小劇場から出発しテレビでメジャーになった人たちの成功例も失敗例も知っているため、アーティストが目指す道が広がっている。そんな中で、自分たちが活動する最低限のお金があれば、それ以上稼ごうと思わない人も増えている。(斎藤)

■収入について
・収入の基本は、公演を行う際にお客様からいただく「チケット代金」と考える。助成金ありきの予算を立てる制作者もいるが、東日本大震災や世界的な金融危機により助成金は今後どうなるかが不透明で、それを頼りに公演を打つのは危険。ほかにも寄付やスポンサー料など、サポートにもいろいろある。そのためには具体的な戦略を立てることが必要。(米屋)
・助成金があてにならないからこそ、次の戦略を考える。また、一番お金がかかるのが場所代だと思うので、劇場と団体、アーティストの横の連携を上手く繋いでいかないと、演劇活動を続けていくのは難しいかもしれない。(加藤)
・最近、制作の需要が高まっているのを感じる。票券や制作助手が仕事として成立していたり、10年前に比べて仕事がしやすくなっている。(斎藤)

■制作者の立ち位置
・制作者として、自分がどの立ち位置でどんな仕事をするのか、ということに意識的になるべき。劇団がひとつの会社としてお金を稼げない今、制作者は「どこの誰なのか」ということをはっきりさせる必要がある。一言で制作といっても、それぞれ仕事の幅は違い、各々が責任とプライドを持って仕事をしていても、「制作」という言葉だけでは世間に仕事内容は伝わらない。(加藤)
・「自分にはこれが出来る」ということをアピールし続けて、周りに「この仕事はあの人にしか出来ない」と思わせる、制作とはそういう仕事なのかもしれない。(米屋)
・どんな仕事でも、自分たちの組織を取り巻く環境がどうなっていて、それに対して自分たちはどんな働きかけが出来るのか、を考えるのは基本。直接関係する仕事以外にも、外の世界に目を向けていかないと、今後制作者として生き延びることは難しい。アーティストと自分だけで向かい合って完結せず、少し引いたマクロ的な視点で物事を見ていかなければ。例えば、公演を打つ際に劇場の非常口が分からなかったり、狭い客席にぎゅうぎゅうに詰め込むなど、安全が保障されていない状態では自ら客層を狭めていることになる。(もちろん、小劇場ならではの楽しみ方という側面もあるが。)観る環境を整える、ということは、カンパニーやアーティストだけでなく、パフォーミングアーツそのものを支えることになるので、ぜひ制作者には、舞台と関係ない人の目線を持っていて欲しい(米屋)
・制作スキルを上げるには、とにかく現場を重ねていくことと、やりっぱなしにしないこと。終わった公演について、きちんとカンパニーや劇場、他の制作者と話をして、次に違うチャレンジをしていくことが大事。(加藤)

■演劇業界への就職
・アーツマネージメントを学んだけれど演劇業界に就職できず、一般企業に就職する人がいるが、一度他業種を経験するというのはとても良いこと。その後、やはり演劇が好きで戻って来ることも出来るし、本業をしながらボランティアで手伝うこともできる。卒業と同時にその道にいけなくても、悲観することはない。(米屋)
・制作をやるには、制作会社に入って肩書きをもらわないとダメだ、と思い込んでしまうことはもったいないので、早めにいろんな人に相談することを勧める。いろんな可能性を考えたうえで、一度舞台業界を離れたとしても、外側から自分がしてきたことを見つめるということは大事なこと。制作は究極のサービス業なので、いろいろな場所で様々な人に接した経験があるということは、強味になる。(加藤)

第二部:質問タイム(20:00~21:00)

参加者の方々から、たくさんの質問がありました。いくつか抜粋してご紹介します。
Q:演劇業界においての「制作」とは、具体的にどういうものなのかを、あらためてお聞きしたいです。

<制作の主な仕事内容>

  • 公演を打つ日程、場所と、資金の調達方法について考える。
  • スタッフ、劇場、稽古場等を押さえる。
  • デザイナーやアーティストと相談してチラシを作成し、配布する。
  • ソーシャルメディアなどへの効果的な情報発信について考え、実行する。
  • 稽古場に顔を出し、作品をチェックしながら、座組みの様子を認する。
  • 劇場と打ち合わせをし、楽屋周りを快適にし、お客さんを向かい入れる準備をする。
  • 当日パンフレットなど、お客さんの手元に届くものを準備する。
  • 幕が開いたら、接客やチケットなど受付回りの対応をする。
  • 公演終了後は精算と、助成金を貰った公演なら報告書を書く。

加藤:まだまだ全然足りないとは思いますが…。アーティストが子供だとしたら、支えて面倒を見る、「みんなのお父さん」といった立ち位置ですね。

米屋:劇場の制作だったら、同時並行でいろんなカンパニーをみたり、劇場をどう宣伝するかも考えています。カンパニーの制作の場合は、アーティストをどう売り出していくか、という公演単位ではないことも考えていかなくてはいけません。今日のお弁当から、5年後、10年後のビジョンまでを同時にコントロールする力が必要です。

斎藤:会社で言うと、経理、人事、広報、営業部門などが制作の役割で、開発部門が脚本・演出・パフォーマー、という感じかと。巨大な規模でやろうと思うほど、部署ごとにきちんと分けていくことが大事ですね。趣味で、小規模でやるなら1人でも成り立ちますが、それなりの規模でやろうと思うと難しいと思います。

Q:助成金の申請書の書き方を教えてください。また、予算書を立てるとき、制作者の収入はどのように設定したらよいでしょうか。

<助成金の申請書の書き方についてのアドバイス>

  • 質問に正確に答えること(目的を聞かれているのにあらすじを書く、などはNG)。
  • 空欄は無くす。
  • 手書きはNG。パソコンで書く。
  • 文字は読みやすいよう大きく、簡潔に分かりやすく。長すぎるものはNG。
  • 予算に関しては、嘘はすぐにばれるので現実的に書くこと。

米屋:申請書を読むのは一般人ではなく、パフォーミングアーツの専門家なので、全てのことをゼロから説明する必要はありませんが、だからこそ余計にプロとしての覚悟が問われます。カンパニーやアーティストの将来のビジョンをはっきりとさせた上で、公演について説明することが求められているので、小手先のコツだけでは通りません。

斎藤:制作者の収入については、予算を組んでいけばおのずと制作費が決まってくることもあれば、「これだけ働くのだからこれだけ貰わなきゃ」という場合もあります。いろんなバイトをしていくと、人間として貰うべき最低賃金というものが分かってきますが、制作としての専門的な知識とノウハウを持って仕事をするのだから最低賃金+能力費で調整していくと良いと思います。

加藤:まずはチケット収入で出来るビジョンを組み立て、それなら会場はここで、スタッフはこの人で…といったことを調整していきます。作品のクオリティを守ることと、経済的に嘘がない状態、というのをバランスよく考えていきます。

米屋:年間を通して活動しているか、単発で打つ公演なのかによっても変わってきますね。

Q:自分の劇団の制作者をずっと探していますが、なかなか良い人に出会えません。どうすれば上手くマッチング出来るのでしょうか?

加藤:制作者とアーティストの良い関係は、対等であり、お互い演劇において大事にしているものが一緒で、近すぎず遠すぎず…となると、そうそう簡単に出会えるものではありません。例えば、当日運営の制作として関わってくれる人の中に、今後もずっと応援したいと思ってくれている人がいるかもしれません。まずはその人達と話してみたらどうでしょう。

斎藤:「制作を引き受けても良い」と言ってくれる人が現れた時に、すぐに条件や報酬額を提示出来るかが重要です。リアルな話をしたときに、答えを持っていない人が多いので。今は若手の制作者たちも、商業演劇の助手などで報酬を得たりしているので、その辺りは賢くなっています。制作者ときちんと話が出来るアーティストは、社会的な感覚としてきちんとしている人が多いと思いますね。

米屋:この質問の答えとしては少しずれますが、カンパニーで活動しないと演劇活動が出来ない、というのは理不尽ですよね。演出家、劇作家としてだけ活動出来るような体制を、プロダクションや劇場がもっと持っていても良いと思います。

Q:新たに観客をつくる、観客を育てるためには、どのようなことをしていったら良いのでしょうか?

加藤:私が制作をしているカンパニーでは、昼間の動物園で公演を行ったことがありました。劇場に来てもらって作品を観てもらうことはありがたいことですが、待っているだけではダメです。人がいるところにこちらからご挨拶に行く、という感覚を忘れないようにしなければと思っています。それが窓口になって、劇場に来てくれるかもしれません。他には、アーティストと、スタッフや劇場さんとの対談をWEBにアップするなど、作品を観せることだけに留まらず、アーティストが表で何かに出会う瞬間を作っていくが大事だと思います。

米屋:広報宣伝の時に、お客さんの期待を裏切らないことですね。とても質の高い作品を創っていても、それがお客さんの期待していた方向と違うものだった場合、もう2度と来ないかもしれません。楽しい雰囲気を前面に押し出して宣伝しているのに、実際の内容はシリアスだったり、といったミスマッチはNGです。新しいお客さんを開拓するには、それなりに時間とお金、人手が必要なので、中途半端になるくらいなら、まずは作品の本質をしっかり伝えることに集中してください。

最後にゲストスピーカーのお二人より一言

米屋:とにかくマクロ的な、大きな視野を持ってほしいということに尽きますが、その中に歴史的な視点も持ってほしいと思います。先輩達の時代と今は当然違うし、今後も状況はどんどん変わっていきます。その中で、日々新しいやり方を探るのが制作者です。今通用しているからといって来年も通用するとは限らない、なら過去はどうだったんだろう?という視点を持ってください。

加藤:制作の仕事はいろいろあるし、人によって様々なやり方がある、というのを感じてもらえれば良いと思います。アーティストが創っている作品がそれぞれ違うように、制作者の答えも一つじゃありません。

第一部のフリートークの途中で米屋さんがおっしゃった、「このセミナーのタイトルは『演劇は仕事になるのか?制作は職業になるのか?』ですが、『なるかな?』と待っていたら絶対になりません。『仕事にする』という強い意志と、様々な能力が揃ってないと難しいですね。」という言葉がとても印象的でした。


セミナー終了後、参加者のみなさんに、セミナーについてのアンケートにご回答いただいきました。制作を始めて間もない方や、アーティストで制作を兼ねている方にとっては「まず、制作とは何か」を知る機会となり、制作をある程度続けている人にとっては「今一度、自分の仕事について再認識するポイント」になったようです。
今後取り上げてほしいテーマやゲストについて、たくさんのご意見をいただきましたので、第二回もご期待ください!

(取材・文:吉澤)


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