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フリンジシアタープロジェクト(FTP)+fringe主催 ラウンドテーブル&ケーススタディ 「地域の小劇場ロングランをめざして」

11.11/16

2011年11月19日(土)~20日(日)
@京都・アートコミュニティスペースKAIKA

去る11月19日、20日の2日間、京都のアートコミュニティスペースKAIKAにてラウンドテーブル&ケーススタディ「地域の小劇場ロングランをめざして」が行われた。
これは、かねてより「首都圏以外の公演日程の短さは、20年前からほとんど進化していない」と断言し、「首都圏以外の公演の長期化――これこそが小劇場演劇が取り組むべき最大の課題である」と訴えてきたfringeと、京都を拠点にフリンジシアター(小劇場演劇)の支援活動を行なっているNPO法人フリンジシアタープロジェクト(FTP)がタッグを組んだ注目のイベントだ。首都圏以外の地域、特に今回は首都圏と較べても遜色の無いポテンシャルを持っているとされる関西地域における「小劇場ロングラン」の可能性を、様々な角度から検証した2日間を完全レポート。


キーノート「ロングランはなぜ必要なのか」

1日目。参加者は15名ほど。土曜日ということもあって本番中の制作者が多いのだろうか?正直言って、少し寂しい参加状況だ。イベントは、fringeプロデューサー・荻野達也さんによる基調講演でスタートした。ここではまず、この場で議論されることになる「ロングラン」という言葉について、「千秋楽をあらかじめ定めない」という本来の意味ではなく、「自分たちにとって1日でも長い期間公演を行うこと」と定義した。その上で、「なぜ観劇人口の多いはずの関西地域でロングランが定着せず、週末のみの公演が主流となってしまったのか?」、そして「なぜ、公演日程という重要なテーマが真剣に語られる機会が少ないのか?」という2つの疑問が投げかけられた。確かに、80~90年代にかけての関西小劇場界の圧倒的な盛り上がりを肌で知っている世代である筆者にとっては、その後「低迷期」と囁かれるような時期があったとはいえ、全国各地で活況が伝えられる昨今の地域演劇シーンにあって今なお関西の舞台公演の多くが週末にしか行われていないという現状は、人口比から考えても大いに疑問だ。荻野さんの分析では、関係者の多くが陥っている「客席が埋まらない」「費用が支払えない」「平日に参加できない」という3つのマイナス心理が公演日数を延ばせない要因になっているという。そしてこれらが、スタッフ、劇場、観客それぞれにとってもさまざまな損失を与えるという「負の連鎖を引き起こしている」と断言した。さらに、この状態からブレイクスルーするためには、これら利害関係のある三者、特に上演団体と劇場が協働することが必要不可欠だと訴えた。

ケーススタディ#1「ヨーロッパ企画のたくらみ。」

続いて、京都を拠点にロングラン公演を実施している劇団「ヨーロッパ企画」の制作を担当する井神拓也さんが登壇し、ケーススタディが行われた。これは、2007年に全91ステージ、観客動員1万人を達成した同劇団の公演「バックトゥ2000シリーズ」の舞台裏を紹介するもので、企画コンセプトから地方ブッキング、チケッティング、プロモーションに至るまで、京都の学生演劇から日本屈指の人気カンパニーへと成長した彼らの秘密を垣間見る貴重な機会となった。井神さんは劇団がロングラン公演を実施していく意義について、「本番を重ねることで確実に役者は上手くなる。それは、カンパニーの財産になる」と話してくれた。

ラウンドテーブル「地域での小劇場ロングランをめざして」

1日目最後のプログラムは、「地域での小劇場ロングランをめざして」と題したラウンドテーブル。フリンジシアタープロジェクトの大橋敦史さんをモデレーターに、荻野さん、井神さん、加えて、小原啓渡さん(アートコンプレックスグループ統括プロデューサー)、相内唯史さん(in→dependent theatre劇場プロデューサー)、高崎大志さん(NPO法人FPAP事務局長)がパネリストとして登壇、さらには会場の参加者も加わり、「なぜロングランが定着しないのか?」、そして「関西でロングランするための条件とは?」というテーマについて自由闊達な議論が交わされた。この中で、現在「日本発(初)のノンバーバルエンターテインメント」と謳ったロングラン公演(※千秋楽を決めない、本来の意味でのロングラン)『ギア-GEAR-』を京都でスタートさせた小原氏が語った「売り手(作り手)の論理じゃなく、消費者(観劇者)の視点で考えないと食えないよ」という言葉が強く心に残った。

「初日ダイジェスト」~ケーススタディ#2「福岡でのロングランシアター開催」


初日ダイジェスト

2日目。この日は前日には見かけなかった参加者が多数加わり、会場内は大いに活気に満ちていた。前日の内容が濃いものだっただけに少し残念な気持ちでいたところ、予定されていなかった荻野さんによる「初日ダイジェスト」が冒頭で行われたので嬉しくなった。少し横道に逸れるが、前日にはスピーカーの自己紹介の時間を省くために全員のプロフィール文がイベント冒頭で配布されるなど、主催者側の細かい心配りに感動させられることしきりであった。実はこういった地道な心配りを着実に行なっていけるかどうかが、例えば「ロングラン公演」というような難しいタスクを実現させる分水嶺になるような気がしてならない。

さて、「初日ダイジェスト」によって、参加者全員の情報レベルと意識レベルが均され、かつ、学習のためのウォームアップがなされた後、福岡を拠点に活動しているプロデューサー・高崎さんによるケーススタディ「福岡でのロングランシアター開催」が行われた。「ロングランシアター」は、高崎さんが運営に携わっている「ぽんプラザホール」で過去3回に渡り実施されたカンパニー支援策で、「若手支援」ではなく、福岡地域内で中位規模のカンパニーのロングラン公演をバックアップするというもの。カンパニーの成長と地域全体の活性化を促していくことが目的だったようで、実際、審査の基準は作品の内容よりも、「制作力」に重きを置いたという。高崎さんは、「同一劇団が劇場を長く(一週間以上)使うことで、劇場内の空気が変わる(馴染む)んです」と、劇場管理者ならではの感想を語ってくれた。

ケーススタディ#3「劇団衛星の冒険」

続いて、劇団衛星の植村純子さんと黒木陽子さんによるケーススタディ「劇団衛星の冒険」が行われた。劇団衛星は「小劇場でしかできない表現」にこだわりながらも、レパートリー制、全国巡業、ワークショップ事業といった「演劇のないところに演劇を送り込む活動」を展開し、劇団員全員がアルバイトをせず年俸制で雇われている稀少な「プロ劇団」だ。ここでは、東京初進出&京都15日間(16st)公演を実現させた「千年王国の避難訓練」(2001年)や、オフィスビルの空きテナントを利用し、3週間あまりのミニ演劇祭イベントとして開催した「第五長谷ビルのコックピット」(2004年)など、おもに「ロングラン」にまつわるトピックを中心に彼らの軌跡が紹介された。いずれも、さまざまアイデアや戦略が練り込まれた好企画だったが、植村さんによれば、ロングランについて特別な意識があった訳ではなく、「小劇場は座席数が限られているので、たくさんの人に見てもらうにはそれしかなかった」ということだった。それは経営的な意向というよりも、創作に関わる者としてのシンプルな欲求に対する、ごく自然な反応のように感じられた。

クロスセッション「ロングランのためのミニ講座」



2日間にわたるイベントの最後は、3班に分かれてのミニレクチャータイムとなった。テーマはそれぞれ、「ヨーロッパ企画の公演予算書」(講師:井神さん)、「公演日数をあと1日増やすための工夫」(講師:高崎さん)「カンパニーを進化させ集客へと導く具体的な方法・特別編」(講師:荻野さん)というもの。井神さんの講座は、参加者が持参した予算書を分析、助言する個別カウンセリングコーナーに。高崎さんの講座では、韓国・ソウルの事例を交えながらローカルかつグローバルな講義が展開された。荻野さんによる講座ではかつてプロデューサーを務めていた劇団「遊気舎」の実際のタイムテーブルを振り返りながら、スケジューリングの際の苦労や工夫などの貴重なウラ話を聞くことが出来た。いずれも短時間ではあったが、スケジューリング、予算組み、助成金申請、チケッティング、経費節減、集客、プロモーション、仕事との両立方法など、ロングラン公演を実現していくための具体的なヒントが多岐にわたって提示されており、どれか一つしか受講できない(同時進行のため)のが惜しいぐらいの濃い内容だった。


総括~有効なチャレンジを妨げているものは何か?

懇親会では、fringe開設10周年を祝して
荻野さんに記念品が贈られた

このイベントが行われた1ヶ月後、今回のイベントを受けて主催者の一人である荻野さんがfringe blogにて「短すぎる公演日程や早すぎる開演時間の演劇は公共性がない」と題した記事を掲載した。荻野さんが長年にわたり問い続けてきたテーマだけにいつも以上に(いや、いつも通りか?)強い口調の提言となり、ネット上で物議を醸すことになったようだ。「ロングラン」「アクセス」「公共性」という、解釈に振り幅がある言葉たちが受け取り手を戸惑わせた可能性もありそうだが、荻野さんが訴えているのは、つまり、「劇場を稼働させるということ、カンパニーが挑戦し続けるということ」の重要さではないだろうか。今回のイベントで提示された実例やアイデアのひとつひとつを検証すると、実はそれほど奇抜なことでも、困難なことでもないように思えた。先に挙げた「初日ダイジェスト」の例のように、目標を実現させるために必要なタスクを丁寧に洗い出し、それを確実に実行に移せるかどうかが、公演日程を延ばす(=ロングラン)ための鍵になるのではないだろうか。そしてそれは、企画の初期段階から公演に参加する制作者が存在しているカンパニーにとっては、実はそれほど高くないハードルのように感じる。何故ならば、ロングランという施策によって生じるタスクのほとんどが、制作部門の領域であるからだ。だとするとやはり、問題はカンパニー(アーティスト)と制作者との関係性にあるような気がしてならない。参加者の一人であるフリーランスの制作者は、こんな感想を話してくれた。「ロングランという選択肢が自分の中で小さくなっていたことに気付かされた。場合によってはそれが有効なチャレンジであることをカンパニーに伝えていきたい」――。チャレンジよりもリスクヘッジを優先させる風潮がインディペンデントな小劇場制作者の中にまで蔓延していないだろうか?どうすれば制作者が長期的な視野を持って有効なチャレンジを提案・実行できるのだろうか?アーティストと制作者が共に考えていかなければならない重要なテーマだと思う。もちろん、「ロングラン」とは手段の一つであって、アーティストごと、カンパニーごとにチャレンジの選択肢は異なるとは思うが。
最後に、このイベントの中で荻野さんが話していた印象的な言葉を紹介してこのレポートを締めたい。
――世の中は、それを変えたいという人の継続的行動でしか変わらない。

(取材・文:郡山幹生)


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