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『地域のシテン』第7回 成島洋子×横井貴子

15.01/28

地域で面白いことを生み出すということ

横井貴子さん 横井貴子さん

――井上さんは、2014年3月に”静岡のおもしろさ”を再発見する「シズオカオーケストラ」というプロジェクトを立ち上げて、活動されていますよね。どうして地域で活動されるようになったんでしょうか?

井上:母校が閉校したりして、まちが寂しくなっているなぁという感覚を、東京から戻ってきたときに感じたのが最初でした。ある時、このまちは誰が動かしているんだろうと思った瞬間があって、そこからいろんな場所に潜り込んで、いろんな人たちと出会っていったんです。それから「グリーンドリンクス静岡」といって、自分のまちに愛着・興味を持ってもらうという趣旨の飲み会を企画しはじめました。実は成島さんともそこで出会ったんですが、同様にグリーンドリンクスをきっかけに広がった人脈や新たな気づきがあり、数年を経て「シズオカオーケストラ」というプロジェクトを立ち上げました。

成島:井上さんのように、地域のことを考えて活動している人は結構いるんですが、実際になにか一緒に仕事をするためにはもう一つハードルを越える必要があります。SPACはアーティストを抱えて、世界に発信していく仕事をやりつつも、一方で県内の支持も増やしていきたいという思いがあります。芸術総監督の宮城聰さんが指揮する中高生鑑賞事業やアウトリーチ事業のような大きな流れがあるなかで、静岡の人がSPACに関わりをもつ、チャンネルを増やしていきたい。そういう意味では、今回の形は観客を増やすこととは別ですが、地域のことを考えている人たちが、やりたいと考えている欲望を実現するためにSPACを利用するというのもいいなと思っています。

――winwinの関係ですね。

井上:チャンネルを増やすというのは、本当にそうですね。今回も、例えば「みんなのnedocoプロジェクト」を通じて、初めてSPACの作品を観たり親しみを持ってくれたりした商店街の方々がいらっしゃったんです。さらには「ふもとのまちとして、できることは協力しますよ!」と、お客様のおもてなしに熱くなってくれました。

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――公演を観に来てもらうというだけではなく、いろんなレイヤーで劇場との関係の作り方が出来るのは素敵なことですよね。「マハーバーラタ」の客席も、なかなか東京では体験できないような雰囲気でした。

成島:客席の雰囲気を自分たちで作っているとは思わないんですが、確かに観に来てくださっている人の幅が、東京よりも多様なのかもしれませんね。東京では娯楽も多いし、劇場の客席は劇団や演劇のファンが占める割合が多いと思うんです。それに対して、静岡は作品で選ぶほどには選択肢が少ないので、演劇好きなコアなファンよりも、SPACだから来てくれているという方たちが多いです。関係づくりに関しては、こちら側がこういう関係を一方的に作りたいと思っても、出来ることではないので、一緒に作っていくということかな、と。

――なるほど。

成島:私自身も、SPACに入るまでは演劇をしていたことはなく、SPACに迷い込んだみたいなものです。静岡に生まれ育って、鈴木忠志さんに出会い、なんだろうこの人々はと衝撃を受けたことがキッカケで…。自分はアーティストではないし、制作という立場で、静岡になにができるんだろうと、ずっと思っていたんです。その折り合いをつける方策を、ずっと探して動いてきました。長い時間をかけて、少しずつSPACに対する期待も大きくなってきたように感じます。

――今までの地道な取り組みが、実を結んでいらっしゃるんですね。

成島:そうですね。作品の質だけでは、なかなか支持は得られないんですよ。作品のクオリティーや、世界でも認められているということよりも、県内の中高生がこんなに観に来てくれているという数の方がわかりやすく響きやすかったりする。でも、本質的には、いい作品を創るということは大切なので、そのレベルを下げずに、いかに裾野を広げていくかということをやっています。

――SPACでは、いわゆるボランティアや、市民劇など分かりやすい形だけではなく、多角的に関わり方のチャンネルを設けているなと思います。それは、誰が主導されていることなんでしょうか?

成島:もちろん大きな方針はあるんですが、自分たちで考えて、こうやったらいいのではないかと考えたことをやらせてもらっているという感覚があります。それはお客様に営業をしていく中で、いきなり「この舞台、面白いから観に来てください」というのはなかなか難しい。どうやったら初めて劇場に来る人のハードルを下げることができるのか、そんな思いや苦労から色々な企画が立ち上がっていますね。
年間100回近く開催している「リーディング・カフェ・ツアー」なども、お金をかけるのではなく、自分たちの人材を活かしながら、できるだけたくさんの人に出会って、SPACの活動をまずは知ってもらうことが大事。地域での営業って、人と出会うしかないなぁ、と。
でも、静岡は面白い人が沢山いるんですよ。今回の演劇祭でも「フェスティバルbar」をコーディネートしてくださった、オルタナティブスペース・スノドカフェの柚木康裕さんという方もそうです。

井上:スノドカフェは、静岡のアート業界の中心になっている場所なんですよ。

成島:「フェスティバルbar」は、お客様と演劇祭に参加しているアーティストがおしゃべりできる場を設けられたらいいなということで始まった企画です。初期は清水にあるスノドカフェのお店で「フェスティバルbar」を開催した年もありました。公演の終演後に移動のバスを出して(笑)。でも移動するとなるとどうしても行く人が限られてしまうので、現在のように終演後すぐに舞台芸術公園内で開催する形になったんです。今回の企画にしても、最初からパッケージでこれをやるっていうのが決まっているわけではなくて、この人と組んでやってみよう!というところからスタートしていますね。もしかしたら、形態は毎年変わってしまうかもしれないけれど、やりながら反省しながら次につなげていく。

――そんな人との出会いで、SPACの多彩な関連企画は膨らんでいったんですね。

井上:でも、成島さんだから出来ていることも多いと思います。出会いから、一緒にやってみようと縁をつくってくださったので、今回のような化学変化が起きている。成島さんのような方がSPACにいらっしゃることは、まちづくりの活動をする側からしても、ラッキーなことですね。


二次的な反応の広がり

――今後の「ふじのくに⇄せかい観光案内所」の展開は考えていらっしゃいますか?

井上:これは個人的な意見ですけれど、シアタークルーのみなさんが観光案内所をやってもいいのではないかと思っています。

成島:シアタークルーというのは、年間を通してのボランティアスタッフのことです。2014年の演劇祭では、それとは別に、演劇祭期間だけの「まるふクルー」も募集しました。クルーさんは、本当に人それぞれでモチベーションも多様なんです。クルーで企画を立ち上げてみないかと提案した時期もあったんですが、演劇の制作を志す人が集まるわけではないし、一つの企画をゼロから立ち上げるのはまだまだ時間がかかりそうです。ただ、演劇祭終了後の「おつかれさま会」の時に、クルーの方から「観光案内所のようなことを自分もやりたい」という声が出て来た。これまでにはない声だったので、お互いにいろんな刺激が起きたと思います。

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井上:とっても嬉しいです。

成島:あと、2015年度やるかは分からないけれど、フリンジ企画を募集してみるのもいいかなと思っています。例えば、2014年の演劇祭では、「ふじのくに⇄せかい観光案内所」のメンバーでもある野村さわ子さんが、「うどうどウォーキングツアー」というのを、3回ぐらい実施してくれたんです。

井上:Facebook上だけの告知だったんですが、nedocoを実施した場所でもある草薙から野外劇場まで、地域の皆さんと歩いて観劇しに行くという企画だったんですよね。

成島:今回の観光案内所も、たまたま井上さんと私が知り合いだったというところから始まったけれども、演劇の公演ではないジャンル横断的な企画を、もっとオープンに募集してもいいかなと。ただ、単に冠事業みたいにしてもつまらないだけなので、数とかはある程度コントロールはするんだけど…。でも、もし何年後かにコントロールできないくらい増えても、それはそれで面白いとは思う。

井上:それも理想的ではありますね。

――「みんなのnedocoプロジェクト」の今後の展開は決まっていますか?

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成島:nedocoって、実は怖い企画なんですよね。実際会ってみないと、どういう人が来るか分からない。初めて会う人たちを、私たちのような、宿泊に関してはある種の素人がおうちに迎え入れるということじゃないですか。これは、実際にやってみて痛感したことです。反響も大きくて、またやらないんですか?という声は多くいただくんですが、また公募してやるのかどうかは考えないといけないですね。

井上:本当にそうですね。仕組みづくりや対策など、得た課題を活かしていきたいですね。

――なるほど。どんな形になるかは分かりませんが、次年度もやっていただきたいです。

井上:そうですね。どんな形であれ是非やりたいと思います。とにかく協力してくださった皆さんからの反応がいいんです。”nedoco@文化のまち商店街”の方々は、2015年もやらないかと言ってくれていますし。

成島:えー、ほんとに?それは嬉しいね。

井上:他にも、”nedoco@歴史あるお寺”の洞慶院さんからも、いい反応がありました。当初はご飯を作っていただく予定はなかったんですが「“歴史あるお寺”というネーミングだし、お客様は精進料理を期待しているのでは」と、ご飯を作ってくださったりして。

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――あの和尚の手料理は、本当に美味しかったです。

井上:そういう申し出をしてくださったことが、とても嬉しかったですね。”nedoco@街の真ん中”の教覚寺さんも、「いい人たちが泊まりに来てくれた」と喜んでくれて。次に繋がる反応が沢山ありました。

――私は神奈川県に住んでいるんですが、nedocoのような企画を自分の地域でもやってみたいと思いました。こういう取り組みが、他地域でもどんどん広がっていけばいいですね。
本日は本当にありがとうございました。


■成島洋子(なるしま・ようこ)
演劇制作者。静岡市出身。静岡市在住。慶應義塾大学文学部卒。1998年より静岡県舞台芸術センターの制作部スタッフとして活動を開始。制作部主任を経て、現在、芸術局長。地域における公共劇場の役割、劇場とまちをつなぐ活動を展開している。SPACで実施している「ふじのくに⇄せかい演劇祭」や「ふじのくに野外芸術フェスタ」では、海外の劇団のパフォーマンスを街中で実施するため市町の行政や地元企業とのコーディネートを行っている。

■井上泉(いのうえ・いずみ)
静岡生まれ。静岡育ち。2010年より、”静岡”をキーワードに様々な人が集い持続可能な地域社会について対話する「グリーンドリンクス静岡」を主宰。中心市街地にあった映画館の閉館イベント「LIVE TODAY(主催)」や、静岡市との共催イベント「シズオカ×カンヌウィーク」運営、ふじのくに⇄せかい演劇祭関連企画など、まちに関わる活動を継続している。2014年春、静岡のおもしろさ再発見プロジェクト「シズオカオーケストラ」を企画。
シズオカオーケストラ>> http://shizuoka-orchestra.com/

■横井貴子(よこい・たかこ)
演劇センターF制作。日本大学芸術学部演劇学科卒業。大学在学中から、ロロや風琴工房などの公演制作を担当し、『えだみつ演劇フェスティバル2013』にフェスティバル事務局として携わる。2014年4月には、演劇センターFの立ち上げに参加。黄金町バザール2014内では演劇センターFとして『演劇パビリオン』を展開。
演劇センターF>> http://tcf-project.net/

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