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『地域のシテン』第7回 成島洋子×横井貴子

15.01/28

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制作手帖×ON-PAM地域協働委員会
リレーインタビュー「地域のシテン」第7回

ゲスト:成島洋子(公益財団法人静岡県舞台芸術センター)/井上泉(シズオカオーケストラ)
聞き手:横井貴子(演劇センターF/ON-PAM地域協働委員会会員)


制作手帖とON-PAM地域協働委員会がコラボレーションして不定期でお贈りしているインタビューシリーズ『地域のシテン』。全国各地域で活動する舞台制作者が自ら聞き手となり、注目すべき「地域のキーパーソン」のシテン(視点、支点、始点)に迫ります。

今回は、昨年のゴールデンウィークに静岡県舞台芸術センター(SPAC)が主催した「ふじのくに⇄せかい演劇祭2014」内で実施された企画「ふじのくに⇄せかい観光案内所」の裏側を、企画者と主催者へのインタビューを通して掘り下げるレポートを掲載します。聞き手は、昨年4月に「演劇センターF」を立ち上げる等、舞台芸術公演以外でも活動している横井貴子さん。

※このインタビューは2014年に行われました。実施時点では2015年の演劇祭開催については未定でしたが、1月17日付けのSPACサイトにて開催されることが発表されました。

《速報》今年もGWに開催!ふじのくに⇄せかい演劇祭
(※2015年1月17日付・SPACサイトへ)>>


そそのかしで生まれた企画

annaijo 観光案内所

――SPACでは、世界中から招聘した舞台芸術の祭典「ふじのくに⇄せかい演劇祭」を長年開催されています。その、「ふじのくに⇄せかい演劇祭2014」で、地元の有志の方による「ふじのくに⇄せかい観光案内所」という企画がスタートしました。
演劇祭期間限定の即席ゲストハウス「みんなのnedocoプロジェクト」や、地元住民が静岡の情報を提供する「コンシェルジュサービス」、地元住民によるディープなオススメスポットが盛り沢山の「静岡を楽しむMAP」など、多彩な企画が展開されており、一体これはなんだろうとわくわくしたことを覚えています。そして、実際に「みんなのnedocoプロジェクト」に参加させていただいたのですが、全国各地からいらっしゃったSPACのお客様や地元の方と一晩を共にしながら、演劇や静岡のことを話すことができ、特別な体験となりました。
まずは、「ふじのくに⇄せかい観光案内所」がどういう経緯で立ち上がった企画だったのか、実現までの流れについてお聞かせください。

成島洋子さん 成島洋子さん

成島:プロジェクトのリーダーをしている井上さんとは、もともと飲み仲間という名の知り合いでした(笑)。仕事でお付き合いをしていたわけではなくて、同じ静岡に住んでいる仲間。以前から、彼女の将来の夢として、観光案内所をやりたいんだよねという話を聞いていたんです。そんな中で、私が考えていたことと、彼女の夢が一致したので、短期間でいいから実際にやってみたらいいんじゃないかと、話を持ちかけたんです。

――そうなんですね。SPACで活動される中で、実際に考えていらっしゃったこととは、どんなことですか?

成島:例えば、日本には京都や東京など、色んな演劇祭があるじゃないですか。そんな中で、静岡の演劇祭は、来日するアーティスト達やお客様にとって、どういう演劇祭なんだろうということを常に考えていて。ここ何年か、滞在型だな、と思っていたんです。静岡って、これといった観光名所があるわけではないですよね?例えば、「KYOTO EXPERIMENT(京都国際舞台芸術祭)」に行ったら、神社の一つでも行くし、横浜のKAATに行ったら、とりあえず中華街でラーメン食べて・・・みたいな。あれ?みんな食べるよね?(笑)

(一同笑)

成島:なにか芝居を観るだけではない楽しみ方があると思うんですが、静岡はそういう意味では、観光のイメージがつきにくいんです。でも、SPACは県外からのお客様が4割5分。その殆どが、ドアtoドアの劇場オンリーで帰っているという現状があったんです。
そこで、これまでの演劇祭でも、滞在してもらうための試みをしてきました。東京から劇場までの直行バスを、往路を土曜日、復路を日曜日にして、一泊してもらう仕組みにしたり…。海外から来るカンパニーには、舞台芸術公園の宿舎に泊まってもらって、フェスティバルをやっている我々(SPAC)が創った作品を観て、交流する機会を設けています。こういった活動をするなかで、SPACには滞在+交流の特徴があるな、と考えていました。

――その試行錯誤が、井上さんの夢と繋がったということなんですね。

成島:井上さんから「駒形通りでお土産物屋さんが併設されている観光案内所をやりたい!」と聞いたときは、駅前でもないし、どういうことなんだろうと思ったんですけどね(笑)。

――駒形通りというところがあるんですか。

井上泉さん 井上泉さん

井上:駒形通りっていうのは、未だに昭和の空気が漂う商店街なんですよ。おばちゃん達がわんさかいる商店街で、活気があっていいところなんです(笑)。

成島:そんな場所でやりたいっていうのは、どういうことなんだろうと思いながら、でも一回形にしてみたらいいんじゃないかと思って、演劇祭で観光案内所をやってみたら?と持ちかけたんです。でも、そのときは現在のような形ではなくて、まちのコンシェルジュのような感じで、劇場に観光案内所があったらいいなと思っての提案でした。

――その話が出たのはいつ頃ですか?

井上:2013年の10月・11月くらいですね。

――では、翌年の演劇祭のときにやってくださいということだったんですね。

成島:そうなんです。その時点で、演劇祭がゴールデンウィークに開催されることは決まっていました。今まで土日でいらしていたお客様の流れを変えなくてはいけないと思っていたんです。そんなところで、観光案内所の話を井上さんにしたら、思いの外、いろんな企画が井上さんから出てきて。

井上:私はSPACからお話をもらったとき、本当にやるの?と驚いたんです。成島さん自身、とてもフランクな方だけれど、大きな組織だし、そういえば偉い方だよなと(笑)。でも、そういった思いを伺ったので、期待に応えたいと思いました。最初の打ち合わせで、まずは思いつく限りの色んな企画アイディアを出したんですが、たまたまその中で宿のニーズの話が出てきて、そういえばゲストハウスをやりたいという友人がいたなというところから、メイン企画となった演劇祭期間限定の即席ゲストハウス「みんなのnedocoプロジェクト」に繋がっていきました。

nedoco_machinedoco_bunkanedoco_rekishi

成島:そうそう。越後妻有(大地の芸術祭)に「夢の家」という、部屋に宿泊して、翌朝に見た夢をノートに書くという体験型の作品があるんですが、そんなように参加した人の感想が蓄積されていくところがあるといいなという話を井上さんにしたことがあったんですよね。

井上:そんな話ありましたね。いろいろ思い出してきました(笑)。

成島:それから、ゲストハウスをいろいろ調べてみたんですが、案外難しいというか、物件ありきなんだろうなと思った。いい物件がないと何も起きないから、ゲストハウスの実現には時間がかかるだろうな、と。そこで、井上さんから、nedocoのアイディアが出てきたときに、そこに関しては焦っていないよと伝えました。

井上:すごい心配されましたよね。

成島:間に合うんだろうか…と思って。

――秋から始動してるんですもんね。

井上:そう。しかも、「nedocoは絶対面白いからメイン企画でいきます!」って言っちゃったんですよね。そう言ったら、成島さんに「メインにして大丈夫?!それがこけたら終わりだよ!」って言われて(笑)。

成島:やれるかやれないかも分からなかったからね。

井上:でもメイン企画でいけるなと思ったのは、ゲストハウスをやってみたいという友人達に声をかけたら乗ってくれて、人が確保できたからですね。最初は「三人の家プロジェクト」という名前でいこうと思っていました。キーマンの3人が、自分の家をプロデュースして、お客様を家に迎え入れるというコンセプトだったんです。そこから、更に練り直して、家ではなく地域の場所を借りることになりました。声をかけてみると、お寺が2カ所確保できたうえに、候補の場所が他にも何カ所かあがっていたので、いけそうだなと思ったんです。

――「人」と「場所」が見えてきたということだったんですね。今回の「みんなのnedocoプロジェクト」では、一般の宿泊施設ではなく自治会館やお寺など、地域との触れあいが満載のホームステイ型で開催されました。選ばれた場所の選定などは、すべて井上さんがされたんですか?

井上:最初に集合の声をかけたのは私ですが、実際に開催できたのはキーマンとなった仲間の力が大きいです。草薙(=静岡市清水区にある地域。有度山の北麓に位置する)の自治会館に関しては、キーマンの一人の野村さわ子さんがいたから実現できました。ゲストハウスをやりたい、かつ、草薙という地域に興味を持っていて、自治会の方たちと知り合っているというポイントを彼女が押さえていたので。またお寺の管理をしている丹羽崇元くんが、もともと友人だったことも大きいです。

成島:仲間を公募したわけでもなく、緩い繋がりの連鎖で誕生したので、メンバーの世代も20代・30代の同世代の仲間が集まりました。なので、ある種危険なところもあったと思うんですけど、本当にね、いいお客様に助けられました。

――お客様からは、具体的にどんなリアクションがありましたか?

井上:MAPは沢山配れて、成果の見通しも分かりやすかったんですけれど、nedocoは正直予想外なくらい反響をいただきましたね。

成島:私は、nedocoでのスタッフの皆のおもてなしスイッチの入り方にビックリしたよ。

井上:たしかに(笑)。一番の収穫は、「みんなのnedocoプロジェクト」という名前を付けたのが功を奏して、ホスト側とゲスト側、そしてSPACとが一緒に作っていく企画となったことですね。お客様の雰囲気や、演劇祭からの高揚感が、いい熱量を作ってくれました。でも、それはSPACのお客様とだったから出来たことなので、相性が良かったんだと思います。

成島:そうですね。単に宿泊費が安くて、雑魚寝でもオッケーな若い人だけではなくて、交流することを受け入れている人たちが、自ら楽しんでくれたというか。謎の出会いを求めている人が集まってくれたように思います。

井上:それは、募集の段階でもそうなるようにイメージを意識しました。だれでもどうぞとなってしまうからこそ、目的を明確にするよう心がけました。それによって、ちゃんとホスト側とゲスト側のニーズが一致したと思います。ホスト側の私たちは、静岡をもっと楽しんでもらいたい。なるべく地元の人達の面白さに触れてもらいたい。ゲストのお客様は、観劇後の感想を色んな人と話したい。普段泊まれない場所に泊まりたい。

成島:「ふじのくに⇄せかい観光案内所」のウェブサイトも、ホスト側の人の顔が見えるようなデザインにしたりしていましたね。
HP

――私もnedocoに宿泊したときに、全国各地からいらした方や地元の方と出会って、一緒にご飯を食べて、地酒をたらふく飲んだことが印象的でした。

MAP

あとは、ご飯のときに「静岡を楽しむMAP」を見ながら、このお店に行きたい!という話をしていたら、翌日に地元の方がわざわざ案内してくれたり…。これまでSPACには何度も行ったことがありましたが、初めて静岡のまちや人を深く知って、また会いにいきたいまちになりました。

井上:ありがたいです。行政の方からも、「着地型観光のいいケースだ!」と熱い反応をいただきました。お客様のそんな様子を見て、私たち静岡のホスト側も、まちへの愛着が湧いてくる企画になりました。

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