アートマネジメントの人材育成と労働環境整備を目指す。「Explat」設立記念イベント ＜レポ―ト＞

舞台芸術のアートマネジメント専門職に向けた、人材育成と労働環境整備のための中間支援組織「Explat（エクスプラット）」は、設立記念イベントを6月29日、森下スタジオ（江東区森下）で開催した。

⇒ 6/29 「Explat」設立記念イベント開催
⇒ 同日オープンとなった「Explat」公式サイト
　
Explatは6月2日に特定非営利活動法人の認証を得て、同24日に法人登記、設立となった。そのミッションは、舞台芸術制作者を中心とした芸術に関わる専門人材が、自らの仕事に誇りを持ち、心身ともに健康で、生涯の仕事として続けられる労働環境の実現に寄与すること。そのために、専門人材への研修機会の提供や、労働環境の整備のための活動・事業を行うという。

岸正人氏

発起人の一人である岸正人氏（あうるすぽっと【豊島区立舞台芸術交流センター】支配人）は、同組織の設立経緯として「特に指定管理制度導入後、アートマネジメント職員の不安定な雇用環境が進行する一方、2020年の東京オリンピックに向けて、様々な文化イベントが興ると思います。一時的な盛り上がりに終わらせず、その成果を今後のレガシー（遺産）としていくためには、国や地方、公共に頼らず、自分たちの事として、まさに今なんとかしなければ。そう考えていたところ、問題意識を共有する若いメンバーが集まり、具体的に動き出して、本日この日を迎えました」と語った。

植松侑子氏

理事長を務める植松侑子氏（フリーランス舞台芸術制作）は、「先輩たちが開いてくれた『舞台制作者になる』という扉。それを次世代に繋げていくために、私たちの世代が出来ることは、『舞台制作という仕事を続けていく』ことが出来る環境を整備することだと考えました」と挨拶した。その上で、アートマネジメントの現場における現時点の課題として、「未経験者の求人募集が少ないこと」「非正規雇用の問題」「（2013年の労働法改正による）雇い止めの可能性」「専門的資格制度がないこと」「スキルアップがOJTに頼り切っていること」「キャリア形成が見通せないこと」などを列挙し、結果として『やりがい搾取』（社会学者の本田由紀氏が提唱する概念、企業風土が、従業員に“やりがい”という報酬を意識させた結果、金銭報酬を抑制してしまう搾取構造）と呼ばれるような状況が生じていると説明した。

Explatが今後行っていく「就労支援」「人材育成」のサービス提供対象は、舞台芸術制作者であり、その雇用主でもある。制作者に対しては、求人／求職情報の提供や、ファースト・キャリアへ向けた就労スキル訓練などを行い、雇用主である劇場等に対しては、インターンシッププログラムの提案や、劇場新設先への運営組織案や雇用環境案の提供など行っていく。その上で、「調査研究・アドボカシー活動」を通じて、アートマネジメント専門職の社会的認知とその役割の重要性を広く普及啓発していくという。

また、将来的には「就労マッチング事業」計画もあり、「職業紹介業」の許可を受けるため、会計・財産基準をクリアすべく、数年以内にその必要額を確保していく見通しだ。

質疑応答では、会員組織についての質問が寄せられた。現時点では「正会員（総会議決権を有する）・準会員・賛助会員」を予定しており、ゆくゆくは「会員限定の非公開求人情報の取扱い」なども行っていきたいと回答。会員／寄付の募集に関しての詳細は、確定次第、公式サイトにて発表するという。

同イベントの基調講演の中で、公益財団法人セゾン文化財団のプログラム・ディレクターである久野敦子氏は、「舞台芸術および制作者を巡る環境は、この20年でドラスティックに変わってきました。様々な支援団体なども立ち上がってきて、その方たちと連携プレイが取れるということが、何よりも（アートマネジメントという概念が立ち上がった）90年代と今の違いだと思います」と語った。Explatが今後、内外の様々な関係者・団体との協働をもって幅広い活動を行っていくことに期待したい。（編集部：芳山徹）

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