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『地域のシテン』第6回後編 平松隆之ほか

14.08/18

私たちは、対話することができるのか?

今回のWSでは、3日間を通して影響したメッセージがいくつか存在したが、その最たるものは、1日目に観た『サーカス物語』の作中に出てくる「二つの箱と鍵」というエピソードだ。

ぴったりしまった箱が二つある とおもしめせ
どちらも手のこんだ細工がほどこされております。
第一の箱の鍵は 第二の箱の中に そして
第二の箱の鍵は 逆に第一の箱の中に入っております。
さて あなたの知らないそのわざとは
暴力にも妨害にも謀略にもたよらずに
ただこの 箱の中の鍵だけですむ法——
さあどうすれば二つの箱があけられますか?
(ミヒャエル・エンデ著 矢川澄子訳 『サーカス物語』第7幕 ジョジョの台詞より)

私たちの心に置き換えて考えると、自分の心に錠がかかっていて、空けられる鍵は相手の中にある。しかし、相手の心にも錠がかかっている…。と考えると、どうやったら、二つの箱をあけることができるだろうか?
一つ一つの要素を断片的に見ていく発想だと、この謎を解くことはできない。しかし、参加者たちはこの謎掛けに対し、WSの様々な局面で例に挙げ、その人なりの回答を出していた。
教条的な解釈を作り手側が考えて普及させようとすることは、一歩間違えると非常に危ういことである。他のメンバーの回答は、本質的に本人にとっての真理ではないからだ。
逆に、自分とは異なる解釈の存在を認め、そのときに起きる事に関心を持ち、自分の意見(想定)が変わっていくことを前向きに考えていると、全く思いもつかなかった視点を獲得できる。私は、このことが「箱をあける」行為であろうと感じている。

白川:
お互いの鍵を開けるには、その二つの箱が不可分のもの、つまり全体としてひとまとまりになっていると考えていかないと、どうしようもないのだと思います。ペアインタビューなども同じで、二人で一体感を作ることが大事。個人の体験をある種の普遍性に持っていく時にはやはり、みんなの力が必要なのだと思います。

デイヴィッド・ボームが書いた『ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ』という本は、対話することを考える上で、ファシリテーターにとっても重要な一冊である。
この本に書かれている内容は、上記の台詞と驚く程共通する内容が書かれている。少し長い引用となるが、ここで紹介したい。

対話の何よりの障害となるものは、想定や意見に固執し、それを守ろうとすることだ。
(中略)文明が発達する過程の初期において、思考は非常に価値あるものと見なされていた。今でもそれは変わらない。我々が誇っている、数々のことを成し遂げたのは思考である。(中略)しかし、なぜか思考は過ちも犯し、破壊を生み出している。これは考え方の一種、すなわち「断片化」が原因である。断片化のせいで、事物はあたかも個別に存在するかのように、小片に分割されてしまう。ただ分断されるだけでなく、実際には分かれていないものまでばらばらにされるのだ。
(中略)社会における我々の通常の思考は、「インコヒーレント(一貫性のない)」ものと呼んでいいだろう。それは対立し合ったり、互いに打ち消したりする思考とともに、あらゆる方向に向かっている。しかし、人々が「コヒーレント(一貫性のある)」方法でともに考えるようになれば、驚異的な力が生まれるだろう。(中略)真実を明らかにしたい、あるいは真実を共有したいというなら。意義をコヒーレントなものにしなければならない。

想定や反応がどんなものかを、ただ見るだけにしよう――自分の想定や反応だけでなく、他人のものも同時に観察する。他人の意見を変えようとしてはいけない。集まりが終わったあとで意見を変える人もいれば、変えない人もいるだろう。(中略)一人ひとりが何を考えているかを、いかなる結論も導き出さず、判断も下さずに、人に理解させるということだ。想定は必ず発生する。自分を怒らせるような想定を誰かから聞いた場合、あなたの自然な反応は、腹を立てるか興奮するか、またはもっと違った反撃をすることだろう。しかし、そうした行動を保留状態にすると考えてみよう。あなたは自分でも知らなかった想定に気づくかもしれない。逆の想定を示されたからこそ、自分にそうしたものがあったとわかったのだ。他にも想定があれば、明らかにしてかまわない。だが、どれも保留しておいてじっくりと観察し、どんな意味があるかを考えよう。

『ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ』(David Bohm著、金井真弓訳、2007英治出版)

白川:
お互いに、これについて話そうという方向性が決まらないと、対話っていう探求の話し合いはできないと思います。サッカーでいえば、これは相手のあそこの網の中にゴールを入れるっていう目的だ、っていうことをお互いに把握していないとゲームが成り立たないと同じです。
対話ではお互いの話を聴くっていうのがすごく大事だと思うんですが、いかに話を聴けるかということは個々の能力に問われるので、普段から聴くっていうモードを意識して使い分けていない人にとっては、いざ対話しようとしたときに、上手く成立するかどうかが運しだいになるのではないでしょうか。
お互いのためにゴールにボールを入れるんだよ、っていうルールが分からない人たちは、このゲームで何をしていいのか分からないから、とりあえずコミュニケーションを取りたがるし、会話したくなる。聴く作法が分からない人は、自分のことをしゃべってばかりで演説みたいになる。
一方、聴くという作法をしっかり自覚している人は、そのゲームに貢献できるように関われると思うんです。

おわりに

今後開催する際に関心を持っている領域について、ファシリテーターの2人に聞いてみた。

平松:
次回やるとすれば、美について考えたい。僕自身は疑問に思うことがあって「美しいなんていうことは、何の役にも立たない」って思うのに、もう片方で人間の美にひれ伏す態度っていうのは圧倒的かつ絶対的だと思うこともあって。なので、すごく興味がある。

白川:
何を共通言語にした場を開くのかっていうことは重要です。「社会と芸術」っていう枠組みは、程良い微妙さの共通言語だと思うんですよ。あまりにも狭すぎることもなく、広すぎることもない。それくらいの広さの共通言語がある場の方が、いろいろなものを育む土壌としてはいいなと思っています。
美に対する私たちの関係性ならば扱えると思うし、その作品がここにあるという空間的意味について深めるようなことはありですね。
でも、僕はこのWSから、自分と共通するつながりや大事なものはいっぱい得られたんだけど、僕が普段ファシリテーターとしての職能を発揮して働いている現場で起こっていることとは取り扱われているものが別だと思っています。だから、自分に関係あるという確信をもってお題をいただいた上で、意識に潜っていったり、問いをみんなで共有していくということができればいいと思っています。

このWSに携わったファシリテーター、スタッフ、参加者の今後の活躍に期待するとともに、このような取り組みが様々な地域の舞台芸術関係者に知られ、その地域固有の環境と結びついて新しい活動が生まれることを、心から願っている。


■平松隆之(ひらまつ・たかゆき)
劇団うりんこ/うりんこ劇場制作部長。子ども、地域、演劇に関する様々な活動を行う。2005年、劇団うりんこ入団。09年、大阪大学第1期ワークショップデザイナー育成プログラム履修。NPO芸術の広場ももなも理事・SPAC静岡から社会と芸術について考える合宿WSファシリテーター・せんだい短編戯曲賞審査員。主なプロデュース作品、10-12年「お伽草紙/戯曲」(戯曲=永山智行・演出=三浦基)、11-12年「クリスマストイボックス」(作/演出=吉田小夏)、14年「妥協点P」(作/演出=柴幸男・舞台美術=杉原邦生)など。
■白川陽一(しらかわ・よういち)
対話と学びの場のファシリテーター。
Keramago Works(ケラマーゴ・ワークス)の屋号で、ワークショップの企画、計画、運営とそのお手伝い、司会・進行(ファシリテーター)、その他教育活動を仕事にし、自らのリソースを使った人助けやコミュニティデザインをナリワイとする日々を送っている。
■平田大(ひらた・だい)
静岡県舞台芸術センター(SPAC)制作部・2013年度スタッフ。主催公演を幾つか担当する他、ワークショップや県内の中高生が参加するシアタースクールを担当。
■藤原顕太(ふじわら・けんた)
Next舞台制作塾コーディネーター。神奈川県秦野市出身。2006年Next入社。チラシ折り込み代行等の担当後、2012年より現職。制作者へのサポート業務として、人材育成と労働環境改善に取り組む。舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)では事務局を担当。

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