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大澤寅雄 文化生態観察日記 | vol.1「畑の中心で人材育成を考える」

14.05/03

文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。
大澤寅雄の連載コラム!

畑の大根。手前には勝手に生えてきたレタス

この度、コラムを書かせていただくこととなりました、大澤寅雄と申します。福岡県在住で、仕事は、文化政策やアートマネジメントに関する調査や研究をしております。よろしくお願いします。
私は、自分のライフワークだと思っているのは「生態系として文化を観察する」ことです。おそらく、読者のみなさんの多くは、舞台芸術に関わっている方だと思いますが、私のコラムでは、直接、舞台芸術に関わることは、そんなに多くないかもしれません。自身の普段の日常生活や世の中の出来事を通して、文化全般、あるいは舞台芸術を取り巻く事象について、みなさんと一緒に考えることができるといいなぁと思っています。

さて、第1回のコラムで書きたいと思ったことは、「人材育成」のことです。ちょうど、インターネットで、4月21日の毎日新聞に「文化芸術政策 仲介者の育成が重要だ」と題した社説を目にしました。以下、一部を引用させていただきます。

(引用元:http://mainichi.jp/opinion/news

東京五輪・パラリンピックのある2020年までの文化政策を記した下村博文文部科学相の私案「文化芸術立国中期プラン」がまとまった。文化審議会での審議を経て、政府は今年度中に「文化芸術の振興に関する基本的な方針」を定める。
さまざまな目標が出されているが、最も重要なことの一つは、文化と市民や外国人とをつなぐ「仲介者」の育成と活用ではないだろうか。
(中略)
文化や芸術では企画をたてたり、運営したりする人も重要だ。それぞれの仲介者には専門的な知識や能力が求められる。彼らをどのように育成し、活用するか。文化政策が優先的に取り組むべき課題のはずだ。

ごもっともです。まったく異論はないです。
ところで、私はおよそ1年前から、福岡県の糸島市という田園地域に住んでいて、仕事の合間に畑をしながら生活しています。ウチの畑には、種や苗を買ってきて、栽培に成功した野菜もあるんですが、どういうわけか、勝手に生えてきちゃって、勝手に実ってしまう野菜もあります。例えば、昨年の秋に「ここに大根を植えよう」と思って耕して種を蒔いておいたところに、しばらくすると、大根の芽ではない草が生えてきました。それは、夏に収穫したあとに種が土に落ちていたパクチー(コリアンダー)でした。
弱ったなぁ。ここは大根に育ってほしいんだけどなぁ。ま、パクチーも食べたいから、大根には申し訳ないけど、そのままパクチーも育ってもらうか。そう思って、大根のスペースのパクチーも放置しておいたわけです。さほど大根も迷惑そうにしているわけではなく、大根は大根で、パクチーはパクチーで、めでたく収穫することができました。
うまく行くことばかりではありません。野菜なのか雑草なのかよく分からないものは、判別できるまで様子を見ていると、結構大きくなってから、食べられる草じゃないことが分かることもあります。そんな調子ですから、周辺の畑のように、きれいな畝(うね)の筋がきれいに整っていませんし、畑の土地を効率的に使っているとはとても言えません。
それでも私は、野菜が「勝手に育ってしまう」畑にできないか、と考えています。そこにある土壌で、種から芽が出て、葉を広げて花が咲いて、実をつけて、また種は土に落ちる。できれば、肥料も農薬に依存せずに、そういう循環が生まれるようにしたいのです。

さて、話を毎日新聞の社説に戻します。「彼らをどのように育成し、活用するか。文化政策が優先的に取り組むべき課題のはずだ」。ごもっともです。でも、なかなか思い通りに育てるのは簡単ではありません。今後、より多くの人材を育成したいのであれば、私は「どうすれば勝手に育っちゃうような土壌ができるのか」を考えたいと思います。
どうすればいいんでしょうか。私は「気長に待つ」「よく観察する」「循環させる」ことではないかと思っています。もし、肥料(=助成金)が必要ならば、それは気長に待てるための持続可能な量で、農薬(=ルールや規制)はできるだけ少なく。そして、現場でどんな変化が起きているのか、よくよく観察しましょう。どんなモチベーションで育ちたがっているのか、どんな困難を乗り越えるのか、誰にどのような手を借りて成長していくのか、誰かが観察し続けなければならない。そして「育ちたい」という人材が、何らかの役割を持つ場面を提供する。「育つ」と「育てる」との間に、循環が起きるようにする。そうすれば、きっと「勝手に育っちゃう土壌」が徐々に形成されるような気がします。

わかったような、わからないような話しですみません。こんな感じで、この先1年間、文化生態観察日記にお付き合いいただけるとうれしいです。よろしくお願いします。



■大澤寅雄(おおさわ・とらお)■
文化生態観察。(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員、NPO法人アートNPOリンク事務局、NPO法人STスポット横浜監事。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント”ソーシャル・シェア”への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』。


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