制作ニュース

『地域のシテン』第2回 三浦基・田嶋結菜×野村政之

14.02/01

民間の小規模でも、公共的な発想で設計

『CHITENの近未来語』(2013)
/photo: Hisaki Matsumoto

――で、オープンして、どうですか?
田嶋:まだ4ヶ月、無我夢中の状態ですね。まあ、楽しいですけどね、毎日のように本番があるということは。『CHITENの近未来語』の公演もけっこう長いことやっていて、終わった時に打ち上がる感覚が一切ないことに驚いたりとか。今日も(『ファッツァー』の)楽日だけど、全然感慨がないですね。またやるし。
――1月に再演するんですよね。
三浦:再演っていう概念も無いかもね。
――「レパートリー」ってことですね。
三浦:そう。うまく行った場合、次もあるというのがもうわかってるから、アンダースローに限らず、「この作品が終わるんだ」という実感はここ数年ないね。加えて、アンダースローでやったらもうレパートリー作品にしなきゃいけないから、そういう意味では「飽きるまでやるんだよね」という感じはある。お客さんが来続けるかぎりやるんだろうな。
田嶋:あとはやっぱり、観客を増やしていかないといけない、ということはあります。そのために「場所がないと」と悶々と思い続けてきたことなので、これでめでたく場所ができて「実験のつもりで気が済むまでできるのかな」っていう感じですかね。
――アンダースローは稽古場という意味での拠点をちょっと越えてますよね。そこが面白いと思うと同時に、地点の皆さんのビジョンがあるのかな、と思ったんですけど。
田嶋:そうですね。「カフェ部分をつくるのかどうか」「稽古場じゃないのか」というのは一時議論になりました。実のところ、そこはすごく現実的な発想ですね。家賃を払うために、公演をやってチケット収入を稼ごうと。
ただ、現実的な発想の一方でやっぱり、演劇人としては「劇場で思う存分仕事がしたい」という気持ちがあるじゃないですか。それでまあ、スペックは何十億というお金をかけて建てられた公共ホールとは比べ物にはならないけど、一応「自分たちの思うことをできる劇場」というのをアンダースローで実現してみて、「自分たちに何ができるのか」を把握したいという気持ちはありました。
制作者として、自分のテーマとして思っているのは、俳優の雇用の問題というのが大きいです。ここのところ、公共ホールは濫立しているけれども、俳優を正規に雇用している劇場がものすごく少ないじゃないですか。だから「劇場という空間が欲しかった」というよりも「その場所に舞台俳優がいるということはどういう果実をもたらすのか」というようなことを証明していく必要がある、と思ったので、私は「稽古場をつくる」というよりも「稽古場兼劇場をつくる」のほうに頭があった。それで人が来てくれるような空間にしようと思ったら、お金をかけて改修しなきゃいけない、ということになったというのもあります。
三浦:最近ロシアに毎年公演に行ってるんだけど、向こうは「家」という概念が劇場にあるのがいいなと思って。行くとだいたいカフェとかに俳優がいるんだよね。劇場に演劇人が住んでる状態に近い。だから「家」とは妙な言い方だけど合ってるなって思って。
でも複雑な思いも一方であって。べつにアンダースローを持たなくても、僕がどこかの芸術監督になって、俳優を雇用できて、公共の場所でできることになればそれでいい。劇団ミーティングでもとにかく「どうなっていくのか」と話していて。最近は、KAAT(神奈川芸術劇場)でも仕事をして、2ヶ月くらい滞在制作をする……そうなると、何もわざわざ重い荷物になるような場所を手に入れなくてもいいはずだ、という思いがずっとあった。でも、ちょっと痺れを切らせたところはあると思う。つまり、「もう……、ない……のか?」という思い……「ダメか?  この国は?」っていうこともちょっと本音ではあって。僕が芸術監督になれたとして、俳優の雇用まで行けるのか。そういう気持ちも半分ある。
一方で足元を見つめると、とにかく作品をつくらないといけない。ということは「稽古場が必要だ」ということで、まずやっぱりアトリエとしての第一義はそこにある。
――……なるほど。
三浦:で、ここで面白いことが起こって。公共ホールで上演しても長くて2週間なんです。KAATがそれだけやってくれるというのもこれ自体画期的なことだけど、普通1週間とかなんですよ。そうすると、レパートリーがどんどん生まれるような形になっても、その作品を上演して世に出していくこと自体あまり期待ができないんじゃないかと。それで、アトリエが劇場になるということに化けていく。
それで、設計の段階から「劇場として客をどういうふうに受け入れるか」とか、公共的な発想でやったわけです。小空間でもトイレを複数つくるとか、階段に手すりをつけるとか、そういう事も含めて。カフェバーをつくって、必ずそこにアルバイトを入れて運営するとか、「本屋さんを入れたい」ということで、小さい貸し棚だけど地元の本屋さんと提携して本を売る。あとカルチベートチケットシステムもつくる、とか。結局は、公共ホールができてないことを、小さいなりに全部実現する。例えば、公共ホールでも上演終わるとカフェが閉まったりしてるわけで。
――開演までは開いてるけど、終演すると閉まってることが多いですね。
三浦:あと本屋も入らない。ヨーロッパ、ロシアもそうだけど普通、劇場に本屋があるんだよね。劇場に行けば演劇書とか専門的なものがあるという当たり前のことが、公共ホールではシステム上できてない。中の人はそれで苦労もしてるんだけど。アンダースローでは、規模が小さい中でもそれを一つ一つ押さえていこうと。
だから、気持ちとしては、民間の劇場で小さいながらもひとつのモデルケースとして「公共とは何か」ということを実験してるんです。僕としてはアンダースローを終の棲み家にするつもりは全然ないし、ひとつのモデルケースとして提示できたらいいと思うし、劇団が活動しているレパートリーシステムとかそういうことを小規模ながら実現していく、ということを、追々……あと十年で勝負付けたい。つまり、あと十年で僕が公共劇場で芸術監督になり俳優を雇用できてなかったら、もう亡命するね、っていう、そのくらいの危機感は持ってる。
――はい。
三浦:だけど、演劇は言葉の商売だからそうもいかない。自分たちの国でやってなんぼだから。アンダースローが出来てから、なおさらそう感じるようになったね。
だからただ「アンダースロー凄いですねー」って言われても困るし、それではいけない。これをモデルとして「こういうことだよね」というふうに思ってもらうような活動をしていかないと……そういう説明責任を問われていると思ってる。
だから複雑な思いなんだけど「痺れを切らして待ってられない」ということと「できることからやる」ということ。将来的に、40席のアトリエから、0が一つ増えて規模が大きくなったとしても、芸術監督制度を持つ公共ホールが出来ない限り、ずっと今のままだと思うんですよね。
――なるほど。非常に腑に落ちる話ですね。
三浦:よく「城を持ちましたね」とかって言われるんだけど、こっちとしては、全然そんな感じしないんだよね。「これ借り物件だよ? 家賃払ってるんだよ?」みたいなこともあるし、「どこそこよりいい稽古場」「どこそこよりいい劇場」くらいにしか思ってないし。まだまだ、これをステップにしてやってもらわないと。
一方で「カルチベートチケットうちでもやろうかな」とか言ってくれる人もいる。そういうことになればいいなと思う。だから若手の実演家が「アンダースローで上演できたらいいな」と思ったら間違いで、「自分たちもアンダースローみたいなアトリエをつくれるんだ」と思うところまで行かないとダメなんだね。だから貸館にするつもりはないし、それだと後退する気がする。それが今の心境かな。

カルチベートチケット制度に込められているもの

『ファッツァー』(2013)
/photo: Hisaki Matsumoto

――カルチベートチケットはどこから出てきた発想なんですか?
田嶋:イタリアで「保留コーヒー」という仕組みがあるというのを三浦さんがテレビで見て、そこからですね。カフェで「コーヒーひとつと保留コーヒーひとつ」って頼むと、一杯だけ出てきて、もう一杯はストックされて、そこに後で失業者の人が「保留コーヒーありますか?」というと、別の人が買ったコーヒーをその人が飲める、っていうシステムです。
もともとアンダースローでは、チケットを定額制にしようと思ってたんです。定額のチケットで、なおかつ場所もあるし人もいるから、いくらでも再演できるっていうことをお客さんに約束できるなと思った時に、サービスの質を担保できるから、保留コーヒーの発想が応用可能なんじゃないかと思ったんです。もうひとつ面白いなと思ったのが「コーヒーをストックする」っていう発想がけっこう文化的というか、失業者の人が「コーヒーで飢えは凌げない」って言ってたというのを聞いて。
会員制度をどうするかとか、寄付した人の名前を椅子に彫るとか、そういうことも考えないではなかったんだけども、"保留チケット制度"をつくることでなんかいろいろうまくいきそうな気がすると思ったんですよね。で名前は変えたいと思って、"カルチベート"というのを考えたんです。
三浦:「保留コーヒー」は、たまたまニュース番組の10分くらいの特集で見て。これは中世のころに町人・商人たちが自分たちで編み出した、国や税金に頼らないで社会を支えるシステムとして発展したものなんだけど、最近のヨーロッパの不景気で、ピザをツケ払いにするとか保留コーヒーとかのシステムがイタリアで再注目されている、という紹介でした。富む者が恵まれない者たちをアシストする一種のパトロン制度だと僕は解釈したんですね。
助成金というのは、近代以降、パトロン制度がなくなって、全員が納税することによって、文化的な公共財を守る……二条城が開放されたり、お寺が観光地になったりというそういうことだなと僕なりに解釈していて、アンダースローに関して今もう一度パトロン制度に戻るのはおかしいと思った。
これまでも地点の活動は、いわゆる大企業からのメセナを通じての支援も受けてきたんだけど、アンダースローをつくる時に、その資金を一種のパトロンにお願いするのはなんか筋が違うなと。アンダースローに関してはあくまでも本当に民間で、自分でやっているもので、ダメならダメでいいし、自分で借金を背負えばいい、と。一方で、作品創作に関しては公共性があることだから、助成も受けている、と分けて考えたほうがいいと思った。
文化庁のアーツプラン21や芸術拠点形成事業の助成が始まるときに青年団にいたんだけれども、「劇団自体の活動を支えるんですよ」という助成金がどんどんなくなってきて、みんな作品単位の助成で四苦八苦してるわけで、助成金の制度もそういう傾向にある中、今ここでアトリエをつくるからといって、なにかどこかに頭下げに行くというのは、どこかでこちらの意識を見透かされるんじゃないかと。
変な話だけど、アンダースローをやることで誰が潤うのかといえば、大家さんが潤うわけですよ。大家さんは民間人です。民間人のために、誰かに頼んで「どこかの企業からお願いします」みたいなのは変というか。規模的にもこの規模だったらこれまでの創作活動と分けて考えた方がいいと思ってた。
さっき複雑な思いといったのは、演出家はやっぱり芸術監督制度で公共的な立場でちゃんとものを言って活動していくものだ、演劇人はそうあるべきだとやっぱり思ってるから。地点・三浦宛で寄付金一口5万円から募ればいいとか、会員制度にしたらいいとか、そうなったら応援するよ、って声かけてくれるプロデューサーは何人も居たんだけど、そういうことじゃないんじゃないか、と。
それで考えたのが、「観客が観客を支える」というシステム。カルチベートチケットは、地点側としては、ゼロ枚でもいいわけです。100枚あってもいい。関係ない、と。地点を観て、何か応援したい気持ちとか、誰かに観てもらいたいという気持ちは観客同士で処理してください、僕たちは助成金を得て、作品に関しては責任もつよ、ということ。助成金に関しては、医療保険と一緒。
みんなが支えあってるはずなんだと。で、そういうふうに割りきって考えた時に理屈ではすっきりいった。で、「まあダメ元でやってみよう。思い切って」と。それで、みんなで相談して、いろんなシミュレーションをしたんです。「誰が一体買うんだ?」とか「誰が使うんだ?」とか。
僕が最終的にこれやりたいと思ったのは、テレビで見た保留コーヒーの様子から。保留コーヒー一杯をつけてくれる人に対して店員が普通に「グラッツェ」(ありがとう)っていうんですね。で、失業者が来て「保留コーヒーありますか」「はい、あります。どうぞ」「じゃあ保留コーヒー一杯ください」って言った時にも「グラッツェ」って言うんです。店員は両方に対して「ありがとう」っていうわけです。
僕らもとにかく、招待で来た人であろうが買って来てくれた人だろうが、観に来てくれた人には「ありがとう」って思ってるわけです。これが、メセナの担当の方が観に来たら「お世話になってます。ありがとうございます」って言わなきゃいけないんだよね。「作品を観に来たこと」に対してだけありがとう、って言いたいんだけど。
それをお客さん同士の中で支えあう、ということにしたら、観客のほうでも自分たちで少し何か発想するんじゃないかと。特に地点の芝居というのはわかりにくいし、娯楽でもないし、観客は観客で孤独なんですよね。で、リピートしてくれて、二回目観る人はカルチベートを使って観ればいい、という選択の余地を観客に与えてしまおうと。そこまでは最初導入するときに想定していた。
―なるほど。
三浦:で、想定外のことがやっぱり起こって。これが笑えるんだけど。
僕がパリに留学していたとき、サン=ドニのジェラール・フィリップ国立演劇センターに、芸術監督でスタニスラス・ノルディという新進気鋭の演出家がいて。全部のチケットを作品に関わらず、当時のお金で一律800円にしたんです。格安で、その代わり招待券ゼロにした。「かっこいいな~」と思ったんだけど、フタをあけてみたら、大赤字で、しかも評論家が見に来なくなったんです。それで賛否両論いろいろあったりして大揉めに揉めていろいろあったんですけど(笑)。
僕自身、招待券を無くすということはずっと考えてはいたんですね。だけど、その例を見てしまっていて「招待券はなんか変だな」とは思ってもなかなか……日本の演劇シーンでも批評が廃れて久しいし「なんかよくわかんないな」とは思うんだけれども、やっぱり招待したい人というか、お世話になってたり「絶対この人には見てもらわないと困る」という気持ちもあるわけです。
で、その時に「招待は無くさない」ということは決めたんだけど……想定外だったのは、招待状を出していて、予約リストにも入っていて、アンダースローに招待客のAさんが来た、そして受付で「ご招待で」とこちらが言うと、「いいですよ、代金払いますよ」って言うんですね。これは今までもずっと受付で味わってきた、どうでもいい問答で。
――そうですね。どうでもいい問答(笑)
三浦:「いいですよ」「いやいや」「いやいいですよ」みたいになって大変だから(笑)。でも一般のお客さんも後ろに並んでたりして。この問答がダサいから僕は嫌だったわけです。そしたら、棚ぼたでAさんが「じゃ、カルチベート買います」って言うんですね。……それは美しいなと思って。
――おぉ! 美しいですねぇ……
三浦:向こうにとってみれば、こっちに払ったも同然。でもこっちは、招待のまま。そして、別の一人の観客が観れるわけです。
――素晴らしい(笑)
三浦:このケースが多くて(笑)、これは本当によかったと思って。
――そうか、素晴らしいですね。結局気持ちの問題ですもんね。「払いたい」という気持ちを受け止めれば良くて。なるほど……
三浦:それで絵に描いたように、学生さんとか大学の教え子とかが、何の気兼ねもなく「カルチベートありますかぁ?」とかって来て、観ていくのを見ると、これはなかなか感動しますよ。誰も意図してないけど、バトンタッチ、リレーになってる。
――それはひとつの文化ですね。
三浦:こんな逃げ道があったのかと(笑)。もちろん5枚買ってくれる人とか、まとまった額を振込してくれる人とかも居るんです。
田嶋:できたばっかりだから、お祝いの意味もあるんだと思います。
三浦:そういう人にとっては会員制度と気持ちはかわらない、というところもあるんですけど、それも全部、僕らにしてみれば、1万円という金額の問題ではなくて、5人観るんだと。架空だけど5人の観客がストックされている、チケットを保留されている状態に、僕たちがどうやって応えるかというと上演をし続けるしかない。やめるわけにいかない。
どこの面を切っても、それぞれがそれぞれで納得できるシステムなんだなということ。本当に画期的だということがやってみてわかった。
――非常にうまく収まりますね。
三浦:もう一つ重要なのが、失業者の人がコーヒーを飲むというときに、「先月失業してしまって家から出なくなった」って言うんですね。「でもこうして、このシステムがあるから、昔の仲間と一緒に気楽にコーヒー一杯飲みに来れる」と。その時に彼が「でもコーヒーで飢えは凌げない」と言ったんです。
僕なりの解釈で行けば、これは芸術と一緒。芸術見たからといって必ずしも飢えが凌げるわけではないし、どういうふうになるかわからないけど、コーヒーを飲みに来て、みんなの顔見ておしゃべりしてるだけで気が晴れる、ということが非常に重要で。前衛的なわけわかんないものを観るにせよ、どんな娯楽作品を観るにせよ、劇場に来ることによって社会を知る。人と一緒に観る。「コーヒーは芸術だ」と思ったんです。
だから、これは僕が実演家だからそう思うのかもしれないけど、これはもう芸術論として最適だと。「救えないよ」「飢えは凌げないよ」「稼いでよ?」っていう(笑)、でももしかしたら芸術がその人にとって何か勇気を引き出してくれたり、何かのきっかけになるんじゃないかと。そうやって僕自身も何度も劇場でかけがえのない経験をしたことあるし、そういう機会になるんじゃないかな、と。
だからほんとに、公共ホールでこれをやらなきゃダメだと思うけど、現状の日本ではこれはできない。なぜならば、レパートリーを持ってないし、貸館やってるから一律のチケット代金にできない。8000円のもあれば、3500円のもある。
――確かにそうですね。
三浦:カルチベートチケットと保留コーヒーの大事なところは、一人が一人、一杯のコーヒーが一杯のコーヒーに代わるというところです。値段じゃないんですね。たまたまアンダースローは価格を落として2000円だから、2000円払うことによって一人が一人を招くということになる。ここが重要なんです。ここを金券にしちゃうと意味ないんだけど、でもなんか公共ホールでも工夫して、例えば学生券みたいな形で、どんな演目でも一律にして一人が招待できるようにできないかなとか、余地はあると思う。
田嶋:折角システムとか名称を考えたんで、広まって欲しいですよね。カルチベートチケットということで。
――なるほど、これ、制作やってる人だったらみんな感じてるところありますからね。例えば招待券のこととかはめんどくさいなぁと思ってますし。オープンしてからどのくらい利用されてるんですか。
三浦:47公演で80人くらい。機能してるといえば機能してる。40人の客席で毎回2人くらいがカルチベートチケットで入ってるってことになるわけだから。
田嶋:環境もあって、京都大学も京都造形芸術大学も近いから、カフェのバイトを近隣の学生に入ってもらって、その子たちにまず「カルチベートチケットというのがある」というのを広めてもらってるんですけど。
――これは全国に広めましょう(笑)
田嶋:カルチベートチケットは予約ができないんです。その日あるかないかわからないから。「たまたま席があるんだったら観よう、あったらラッキー」という制度なので、地域性があるというか、わざわざ2時間かけてカルチベートチケットで観に来る人は居ないわけです。もし導入しようと考えたら、そこでいろいろと今の日本の演劇界で普通になってることをいくつか見なおさないといけないということもあって、そういう意味でもカルチベートチケットが知られて、議論を巻き起こすといいなと思うところもあります。
――もうちょっと時間がたったらまたいろいろとケースが溜まっていくでしょうね。
田嶋:アンダースローを開く前に試算をしてみて、年間8000人アンダースローに入ったら、家賃も払えるし、劇団員も食べていけるんですよ。だからといって助成金に頼らずにやっていくようにするんだということではないんですけど。
――その試算は、助成金抜きでっていうことですか。
田嶋:そうです。でもそのキャパ40の場所で、8000人呼ぶとなったら、200公演は必要で、しかも満席にしていくというのはすごく大変なことだから、制作者としては「どこまでできるかやってみたいな」という気持ちはあるんです。そうやって観客を増やしていかない限り、新しい展開もないと思って。
――今回『ファッツァー』も最終日の後に追加公演が決まったり、再演も決まったり、『CHITENの近未来語』も、「またやるんだ」みたいにフレキシブルに、即応してやっていくスタイルがあるな、と思います。活動する側としては全くビジョンが変わってくるだろうなと感じているんですが。
三浦:フェスティバルとか劇場の買取公演とか共同制作が決まったらその隙間でできるね、ということだから、必然的に公演は増えるよね。
田嶋:気にするのは俳優の体力くらい。でもそこで、どうやって観客を増やしていったらいいのか。とりあえず今は、活動を続けることが最大の宣伝行為だと思って「すごく客席が寂しくてもやると決めたらやる、無駄にやる、ひたすらやる」ということをやってるわけですが、「もっといい手もあるんじゃないか」、という気もしているので、それを並行してやっていかないと年間8000人、毎年集客できるというふうにはならないので。
――地点の全体の活動としては、結局劇場での新作公演とかツアーが入ってくれば、その分だけアンダースローで公演できる回数は減るわけですよね。
三浦:そんなに依頼も入ってこないからね。今までも断ったことは無いし。
田嶋:どんな依頼も全部受けてる。
三浦:もっと買ってもらわないといけない。KAATでつくった作品も、ほかのところに買ってもらえてるわけではないし。まあ、可能性としては、アートをマネジメントする概念というものをしっかりやっていかないと、公共ホールがちゃんとしないと立ち行かないと思う。「芸術はわからないもの」で終わっちゃうわけだから。
助成金も保険制度と一緒ですよ、と。もちろん、究極的には違うものなんだけど。県立劇場がある、市立劇場がある、それを運用していく側がどれだけそこに刺激的なことをできますか、というシンプルな問題。公共ホールが貸館をして芸能人に貸し出して、なんていうのはまったくもってナンセンスで、ヨーロッパもロシアもそんな劇場はない、ということだけを思い知るべきなんです。これは極論でもなんでもなくて、それ以外にスパッと市民や県民に説明できないと思う。歯医者さんに行って、僕ら治療してもらって1000円だったり2000円だったり、でも年間で2万円払ってたりして、ひとそれぞれいろいろ払ってるわけ。でもそれは問わないわけです。
――確かにシンプルに考えてそうだと思いますね。

世界中からアンダースローに

――最後に、この先についてはいかがですか?
田嶋:この場所を使って、いろんな観客と出会うということを気の済むまでやりたいですね。あとは、劇団の運営の面からいうと、この10年間の間に、人と出会いたい、具体的にいうと、地点の制作者を一人増やしたいなと。
三浦:僕は公立劇場の芸術監督になること。そして俳優を雇用すると。県立でも国立でもいいんだけど、やっぱり頂点のモデルを示したい。それしかないですね。実際それが生きてるうちにできるかどうかわからないんだけど、やっぱりそれしかない。
――アンダースローや京都という地域についてはどうですか。
田嶋:10年が終わった時に、やっぱり譲りたいですね。誰かに。
三浦:春風舎と一緒だよね。MODEから青年団に譲られたように。(※アトリエMODEが青年団に譲られてアトリエ春風舎になった)
田嶋:だから場所をもって初めて、エデュケーション、専門的な教育をやりたいという感じはしてますね。
――なるほど。三浦さんはどうですか。
三浦:2つあって、ひとつはちゃんとした公共の芸術監督制度というのをきちっと示したい。ひとつのモデルを示したい。
もうひとつは、演出家としてはどっちみち、作品が勝負なんで、作品をつくるしかない。そのつくる環境というのを見極めて、場所と付き合って行きたいと思う。いろいろバリエーションはあると思うんだけど、いい作品をつくれば客は来るので、やりつづける体力を失わないように。つくることしかできないから。売るものがないと困るから。
その意味ではまだアンダースローを使いこなせてないし、サイン計画ひとつ、置きチラシの置き方とか、小さなデザインなんだけど、実は空間の大きなコンセプトに関わっている。サインが不十分だから「トイレどこですか」って聞かれる。ただ、わかりやすいサインをするのが本当なのか、と逡巡してるんで。カルチベートチケットはある程度見つかったかなと思ってるから、ほかの細かい、気になっていることに答えを出していきたい。
あとまあ、世界中からアンダースローに人が来るようになればいいなと思ってる。京都だし。アンダースローに来たら、銀閣寺に行けばいいと思ってるから。
――そうか……そうですよね。
三浦:そこが全然違う。京都のポテンシャル。
――凄い可能性ありますね。
三浦:それはもう、観光都市だから。外国の人みんな京都に来たいと思ってるし。
――どうもありがとうございました。では後ほどアトリエで『ファッツァー』を拝見します。

(2013年11月24日京都・地点事務所にて)

インタビューの後、アンダースローで『ファッツァー』の公演を拝見。終演後は、ほとんどの観客がしばらくカフェスペースで歓談してから帰る。観客同士で、あるいは、地点やバンドのメンバーと。そうして、観劇後の熱気が静かにさめていく…というか、会話のひとつひとつに込められて、熱が交わされていく素敵な時間がある。チケットシステムから公共的な劇場のあり方まで、さまざまな考えが込められたアンダースローだが、このゆったりとした時間の中にこそこの「文化」の魅力とその可能性が秘められていると、直に感じられた。

(構成:野村政之)


■三浦基 みうら・もとい
地点代表、演出家。1973年生まれ。桐朋学園芸術短期大学演劇科・専攻科卒業。 1996年、青年団(平田オリザ主宰)入団、演出部所属。1999年より2年間、文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに滞在する。2001年帰国、地点の活動を本格化。2005年、京都へ拠点を移す。著書に『おもしろければOKか? 現代演劇考』(五柳書院)。2008年度京都市芸術文化特別奨励者。2010年度京都府文化賞奨励賞受賞。2011年度京都市芸術新人賞受賞。現在、京都造形芸術大学客員教授。

■田嶋結菜 たじま・ゆうな
地点制作。1980年生まれ。2003年、国際基督教大学(ICU)卒業後、青年団・こまばアゴラ劇場に勤務。アトリエ春風舎のオープニング作品として上演された『三人姉妹』(2003年)以降、すべての地点作品及び三浦基演出作品に関わる。2005年、地点の制作者として演劇活動の拠点を京都に移す。同年4月から2007年3月まで京都芸術センター(指定管理者:公益財団法人京都市芸術文化協会)にアートコーディネーターとして勤務。以降、地点の専属制作者に。

■野村政之 のむら・まさし
1978年長野県生。大学から演劇活動を始め、公共ホール勤務を経て2007年から青年団・こまばアゴラ劇場制作部に在籍。平田オリザ作品の制作と並行して、若手演出家の公演に様々な形で参加。ドラマトゥルクを担当した、柴幸男『わが星』(ままごと/2009)、松井周『自慢の息子』(サンプル/2010)が第54,55回岸田國士戯曲賞受賞。舞台芸術制作者オープンネットワーク事務局、桜美林大学非常勤講師、アサヒ・アートスクエア運営委員。

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