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未来のエンタメ業界を支える若手たちへ〜松竹初のインターンシップ〜

15.01/21

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未来のエンタメ業界を支える若手たちへ〜松竹初のインターンシップ〜

舞台や映画など、1895年の創業以来、長きにわたり日本のエンターテイメントを支え、築き上げてきた松竹株式会社。その松竹が昨年秋、学生を対象としたインターンシップを実施した。松竹として初の試みとなるこのプログラムは、どのような意図で行われ、またどのような効果をもたらしたのか。松竹人事部の武藤寛征さん、そして経営企画部広報室の村上具子さんに話を伺った。(編集部:大澤歩)

インターンシップに込められた二つの思い

「私自身は、前から実施してみたいと思っていたんです」。松竹でのインターンシップ実施について武藤さんは、以前からの構想であったことを明かす。しかし、一般的な就職活動のスケジュールと松竹の現場社員の繁忙期が重なってしまい、見送らざるを得なかった。

松竹も加盟している経団連が示す、就活スケジュールのガイドラインに沿って、多くの企業では大学3年生を対象としたインターンを夏あるいは冬に実施している。しかし松竹にとって夏は「夏興行」の真っ最中、そして冬はお正月の書き入れ時と、夏・冬の時期にインターンを実施するのは難しい状況だった。

が、2016年卒業予定者の就活スケジュールが大きく変わった。会社説明会の解禁はこれまでより3ヶ月遅い3月、そして採用選考開始は4ヶ月遅い4年生の8月からとなったのだ。

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このスケジュールなら、秋というタイミングでインターンを実施することができるのでは──。武藤さんは松竹初の試みに向け、具体的プランを練り始めた。

mr_mutoh武藤寛征さん

とはいえ、社内では実施に対する不安の声も少なからずあった。まず、インターンを実施するということは、現場に学生が入るということだ。舞台や映画を扱う松竹の現場には、「解禁前」の情報や素材が多数存在する。それを学生に開示することをよしとするか。さらに、各部署でインターンのためにどこまで人員を割けるのか、そもそも割くことが可能なのか──。

そういった声に耳を傾けながら、武藤さんはインターンへの理解を求めるべく関係部署への説明を重ね、多くの役員や社員の理解と協力を得て今回の実施に至った。「新たな取組みを受入れてくれた、関係各部の皆さんには本当に感謝している」と武藤さん。そこまでして松竹がインターンを実施しようとした理由は大きく二つ、第一に雇用におけるミスマッチを防ぎたい、第二に松竹社員、とりわけ将来のエンターテイメント業界を担う若手の自己研鑽の場を設けたい、そんな思いがあった。

「想像」と「現実」のギャップをプラスに

今回のインターンシップでは、

1、映画宣伝部
2、映像企画部
3、松竹撮影所
4、事業部(事業推進室ほか)
5、歌舞伎座

の5ヵ所に分かれて4日間のコースと、松竹全体について1日で学べるコースの2コースを設けた。全体の応募数はどれほどだったのだろうか。

「まずエントリーだけで2,700ほどの応募があり、その後のエントリーシートの提出で700くらい。ちなみに男女比は4:6で女性が多かったです」。2,700という応募数は、武藤さんにとっては「想定以上」だった。また、歌舞伎座や、撮影所などの現場体験を希望する学生よりも、“宣伝”ということに興味を持つ学生が多かったそうだ。「映画に絡めたイベントも多く、『映画宣伝=映画業界!』という華やかなイメージがあるのかもしれませんね(笑)」、武藤さんは学生の気持ちを推察する。

しかし、実際のエンターテイメント業界の仕事といえば、華やかさとは程遠い、地道な作業の連続だ。例えば宣伝の仕事はイベントを手がけるばかりではなく、マスコミへの試写状案内の送付やチラシ折り込みなど、表には出てこない作業がほとんど。描いていたイメージと現実とのギャップを感じ、入社してから「自分のやりたいことと違った」と思う社員も少なくないという。

ただ、「想像していた内容と違う」ということは必ずしもマイナス要素ではない。その違いから見出された新たな視点が、業務理解を深めるきっかけにもなる。

今回の松竹撮影所でのインターンでは、セットを掃除したり道具を運んだりといった雑用的な仕事も多く、やはり業務内容にギャップを感じる学生もいた。しかし、ある学生からは「雑用という仕事を通じて、自分がセットの一部に関わっていることを感じられた」という感想が寄せられたという。イメージと現実とのギャップはその学生にとってむしろプラスとなり、結果、その学生の志望度はアップした。

また、歌舞伎座でのインターンでは、「若い人に歌舞伎を観にきてもらうためにはどうしたらいいのか?」というテーマで学生が案を考えプレゼンするという時間を設けた。当初は「料金を安くする」といった案が多かったが、劇場での仕込みやバラシ、また松竹の舞台において非常に重要な存在である「監事室(※)」など、歌舞伎座の裏側を見学した後では、ただ料金割引をすればいいということではなく、宣伝方法や施策に関する案など、歌舞伎をより多角的な視点で考察する姿が見られたという。

インターン後に行った学生へのアンケートでは、「イメージしていた内容と実際の仕事は違うということが学べたこと、また社会人として、ビジネスとしてエンタメをどうすべきかを学べたことがよかった」という感想が多く、学生の満足度も高かった、と武藤さんは言う。

「松竹でひとつの作品にどれくらいの人が動いているのか、社員がどんな思いをもって接客しているのか、参加した学生に知ってもらうことができたことはとても良かったと思います」、そう振り返った。

※監事室
松竹系の4劇場(歌舞伎座・新橋演舞場・大阪松竹座・京都四條 南座)に設置されている部署。舞台装置や音響、照明など客席側から舞台を監視、現場と制作を繋いでいる。

未来のエンタメを支える、若手の存在

そしてもうひとつの課題、若手社員の自己研鑽についても、武藤さんはインターンを通して確かな手応えを感じていた。「インターンの現場についた若手社員は、タイトなスケジュールの中、とても前向きに取り組んでくれた。学生と4日間、フィードバックしながらやりとりをしている姿から、その人自身の成長を感じられました」。

松竹は現在、若手が活躍できる場を積極的に設けている。例えば映画では「チャレンジ企画」を実施、若手社員から出される企画をどんどん取り入れている。その背景には松竹のキーワード、『水平展開』『海外展開』がある。

『水平展開』とは、例えば歌舞伎なら、その歴史や文化を探り知識を深めていくという〈縦軸〉の展開だけでなく、歌舞伎の特徴を他ジャンルにも活かし、より広範囲に渡って歌舞伎の魅力を伝えていくという〈横軸〉の展開を指す。「そこには従来の考えに囚われない、若手ならではの新たな発想が必要となります」と説明する。

また『海外展開』については、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、社内でチームを発足。そのメンバーには若手社員も起用し、オリンピックに向けて松竹のもつ文化的資産をどう活用していくか、積極的に若手の意見を求めている。

『水平展開』『海外展開』という松竹の施策面からも、インターンは若手社員の成長を促すプログラムとして大いに役立った、と武藤さんは見る。広報担当として、インターンを見つめていた村上さんも「会社のことを教えるためには、自分が会社のことを知らなければならない。今回のインターンは、社員の方が良い影響を受けたと思う」と語った。

武藤さんは言う、「映画や演劇は、多くの人が集まってひとつのものをつくる。最終的に大事なのは、まわりの人をまきこむ人間力と、それを具体化する『実現力』になってくる」。そしてこう続けた、「それを学ぶのは、大学の授業より、普段の人付き合いの中でだと思うんです」。

インターンシップという活動を通じて、学生の仕事へのモチベーションを高め、かつ若手社員を積極的に育て、新たな企画に若手の力を取り入れていく。そんな松竹の姿勢が、一企業としての発展にとどまらず、日本のエンターテイメントの発展を後押ししているのかもしれない。


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