制作ニュース

「最強の一人芝居フェス“INDEPENDENT”2nd Season Selection/JAPAN TOUR」プロデューサー・相内唯史(インディペンデントシアター)前篇

11.11/01

,

大震災の影響と、仙台・森忠治プロデューサーの尽力

――仙台では、大震災による影響も大きかったと聞いていますが?

仙台公演は震災前から若干進行が遅れていて。というのは、仙台の劇場は公共ホール系しかないのですべて抽選制なんですね。だからまずは抽選で劇場を取れないと何も動けない。もちろん劇場以外に関することは先に動いてはいるんですけど、とにかく肝心の劇場が決まらないっていう状況がずっと続いていたんです。で、結局はその抽選に落ちてしまって、予定していた日程を変更せざるを得なくなったんです。ということで、新たな日程で正式な手続きをお願いしようと仙台のプロデューサーの森(忠治)さん*2に電話をしたのが、ちょうど3月11日の昼間だったんですよ。

――えー!?そうだったんですか?

森さんとの電話を切ってから間もなくして、「仙台が大変です!」ってスタッフに言われて慌ててワンセグを見たら、仙台空港に水が押し寄せてる映像が流れていて・・・。そこからこれはちょっとどうしたもんだろ?ってなりまして、まず今すぐに森さんに連絡を取るべきだろうか?ということを悩みました。結局、きっと森さん自身も個人のこととかご家族や仙台の仲間のことで連絡を取り合わなければならない状況だろうから、森さんの方から何かアクションがあるまで待とう、と決めました。だけど正直、「仙台公演できるのかな」ってその時点で思いました。それから、森さんがツイッターでつぶやいてくれたので森さん自身や仙台で出演してくれる予定のメンバーが無事だということがだんだん分かってきて、それと同時に森さんのご両親が行方不明だということも知りました(森さんのご両親はその後死亡が確認された)。仙台公演は8月なので、まだ時間的な余裕もあるから、おそらく大混乱というような状況ではないにしても、ただの娯楽としてやっているつもりはもちろんないですけど、やっぱりお客さんから感情的に受け入れてもらえるのだろうかって凄く不安になりました。だから公演を決行するべきかどうかってことはもの凄く悩みました。でも、まあ、わりと直ぐに答えは出ましたが。

――それはどんな?

震災の次の日に、大阪ですら今公演しちゃっていいのかな?っていう空気になってたんですよ。うちの劇場を使っている劇団でさえそんな風に不安に思っている状況だったので、劇場として何か公式にコメントしないといろんなことがストップするなあと思って、インディペンデントシアターは取りあえず公演活動をやれる限りは継続します、という発表をしました。東北のことは心配ではあるけれども、今無事である僕たちはここでストップして考えることだけに終始してしまうより、走りながら次のアクションをどうするべきか考えた方がいいんじゃないかと思ったんです。今目の前にやれることがある僕たちはとにかく走らないといけないんじゃないかって。仙台公演に関しても、基本的にはやりたいって方向で考えつつも、今後の状況に応じて最終的に決定します、という発表をしました。それから、森さんと連絡がとれたんですが、ご自身の状況を話してくださった後で「で、『INDEPENDENT』のことなんだけど・・・」って切り出してきたんです。結論を他人に委ねるわけじゃないんですけど、僕はもう、森さんが「やれない」っていうなら状況的に仙台公演はできないなって思ってたから、覚悟して聞いていたら、「・・・やめるなんて言わないでね」って言ってくれたんですよ。「いろんなことがあって、多分予定していたよりも大変な状況になるけど、やめるって言わないで欲しい」って。その言葉で完全に迷いがなくなりましたね。森さんがそういう覚悟で受け入れてくれるなら、これはもう何が何でも仙台公演やってやるぞって。

――心強い言葉ですね。そこからはどのような動きをされたんでしょうか?

まず参加が決まっている俳優や演出家と話し合いました。半年近く先のことなので多分大きな危険はないとはもう思うけれども、被災した場所に行くことになるし、その時どんな状況なのか今からじゃ想像がつかないので、そういうリスクも理解した上でなお、参加してくれるのかどうかと。そこでみんなが「やります」って言ってくれたので、じゃあ僕が尻込みすることはもう何もないなって思えました。そうなると、僕たち制作サイドとしては具体的なことを詰めていくだけなんで、まず仮予約していた劇場の被災状況などの確認をしました。劇場に問い合わせると、スプリンクラーの誤作動で館内が水浸しになってしまい復旧には時間が掛かる、ということでした。夏までにはまだ時間があるけれど、他に優先的にお金を回さなければならないことがたくさんあるから、復旧作業をいつ始められるかも分からないってことだったので、本格的に他の会場を探すことにしました。と言っても、その時点で文化活動のために使える施設が仙台にはことごとくない状態でした。だけど、これもかなり奇跡的なんですけど、もともと『INDEPENDENT』をやるにはベストな空間だと思いつつ料金が少し割高だったので利用を諦めた「仙台市市民活動サポートセンター」だけがほとんど被害を受けていないということが分かったんです。「施設自体は今すぐにでも使えるんだけど管理体制とかの問題で停止している」ということだったんですが、「じゃあそこさえフォローできたら利用できるんですね」って、森さんが仙台市とか財団とかいろいろなところに掛け合って使える状態にまで持って行ってくれました。

――森さんの行動力には頭が下がりますね。ご家族がご不幸に遭われた直後だというのに本当に凄い。

打ち上げの時に森さんが言ってたんですよね。「でも、やることがあってよかったよ。もしも自分がやり遂げなければならないと思えることがなかったら、一歩も動けなくなってたかもしれない」って。その言葉を聞いて、ああ、それだったら僕たちもいっしょにやれた価値があったなあって思えたんです。

⇒ インタビュー後編はこちら

取材・文/郡山幹生

注釈
*1「沖縄で遭遇した未曽有のアクシデント」…インディペンデントシアター公式ブログ「沖縄公演顛末記」「バトンを継ぐもの」を参照。
*2 「森忠治」…仙台を拠点とする、舞台芸術プロデューサー・ワークショップデザイナー。震災後、せんだい舞台芸術復興支援センター/SPICを起ち上げ、事務局長を務める。


■相内唯史(あいうち・ただし)■
北海道札幌市生まれ。大学進学で関西へ。在学中は映像や音楽イベントに多数関わり、2000年 in→dependent theatre 劇場プロデューサーに就任。舞台衣装デザイナーによるファッションショーや、2劇場の連動で街自体を劇場化するなど、挑戦的でコンセプチュアルな劇場プロデュースを多数企画製作。特に看板企画であり10年110作品の歴史を誇る最強の一人芝居フェス「INDEPENDENT」は、2011年夏に7都市を巡る全国ツアーを敢行し、各地で大きな熱狂と感動を巻き起こした。クリエイターとしても映像やデザインで様々な作品に参加。関西在住の某ライターから「止まると死んじゃう生き物」とコピーを付けられほど、常にアグレッシブに活動を続ける。

■インフォメーション■

インディペンデントシアタープロデュース「最強の一人芝居フェスティバル“INDEPENDENT:11”」
【日程】2011年11月24日(木)~27(日)
【会場】in→dependent theatre 2nd
【公式サイト】http://i-theatre.seesaa.net/

固定ページ: 1 2


ピックアップ記事

公募
「第9回せんだい短編戯曲賞」3/1より募集開始

Next News for Smartphone

ネビュラエンタープライズのメールマガジン
登録はこちらから!

制作ニュース

ニュースをさがす
トップページ
特集を読む
特集ページ
アフタートーク 
レポートTALK 
制作者のスパイス
連載コラム
地域のシテン
公募を探す
公募情報
情報を掲載したい・問合せ
制作ニュースへの問合せ


舞台公演チラシをご自宅へ NEVULAのチラシ宅配サービス「おちらしさん」お申し込み受付中

フェイスシールド・消毒液など、ウイルス対策グッズ販売中!