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「新しい人に出会いたい」演劇動画で挑む、ヴィレッヂの新たな挑戦

14.12/22

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ヴィレッヂの中にある「劇団ファン」と「新しいお客さん」2つの方向性

—ところで、皆さんはヴィレッヂの中では普段どのようなポジションで仕事をされているのでしょうか?

糸永:現在のヴィレッヂを大きく分けると、『劇団☆新感線』や『劇団、本谷有希子』をはじめとする舞台制作を担当する「演劇チーム」、『ゲキ×シネ』(※)を担当する「映像制作チーム」、そして私たちの「プロダクツ部」という3つの部門に分かれています。とはいえ、これらのチームはキッパリと別れているのではなく、それぞれがプロジェクトごとに有機的に絡みあっているのですが。プロダクツ部の前身は「株式会社イーオシバイ」(関連会社として2003年設立、2008年にヴィレッヂと合併)で、大まかに言うと僕らは映像の二次利用などのコンテンツや新しいところを切り開いて行く部分を担っていますね。

—2012年当時、演劇・舞台系動画のニュースサイト『エントレ』を立ち上げた時はどのようなきっかけで?

森脇:僕が取材から編集までを担当しているんですが、立ち上げ当時はUstreamの演劇配信やYouTubeでダイジェストを流すということを世間でやり始めた時期でしたから、『エントレ』はそれら「演劇の映像コンテンツ」をまとめて紹介するというコンセプトで始めました。

山谷:あの頃は新感線としてDVD販売は続けながらも、同時に映像配信の可能性についても模索していた時期で、糸永や森脇には「配信についての世間の動向を探る」というミッションもありましたね。

—QSCを立ち上げた時、社内の反応はどうでしたか?

糸永:ヴィレッヂ全体の方向性として「新しい人と出会う」というコンセプトがしっかり見え始めていた時期で、今まで舞台公演でも『ゲキ×シネ』でも出会うことのできなかった人たちとQSCで出会えるんだ、という部分は社内的にも共感してもらえましたね。

—「新しい人と出会う」というコンセプトが社内で見え始めたのは、具体的にはいつ頃から?

糸永:「イーオシバイ」ができた2003年当時、ヴィレッヂでは『劇団☆新感線』のファンに向けたDVD・ビデオ販売をしていたんですが、「ファン向けだけじゃなくて、広く一般の方にも見てもらえるクオリティで映像を作ろう」という流れが生まれました。それは、“演劇”というのは時間的、空間的制約から一部の人だけが楽しめるちょっと閉じた世界であるのに対して、“映像”というツールを使うことで新しいお客さんと出会い、その人たちがいつか舞台に来てくれるようになるのではないか……という可能性を考えたからなんです。そこから社内でも「劇団のファン」と「新しいお客さん」という2つの方向性を模索し始めて。『ゲキ×シネ』やイーオシバイの設立理念もそこにあります。

—演劇DVDショップの『イーオシバイドットコム』でも映像による新しい演劇の楽しみ方を提供していますね。つまり、「劇団ファン」と「新しいお客さん」というヴィレッヂ内の2つの方向性においては、皆さんが「新しいお客さん」に向けた部分を担っていると?

糸永:いえ、そこだけではないです。新感線のDVD販売では購入者の6、7割は劇団のファンで、その方たちにどう喜んでもらうかという視点は欠かせないですし、店頭に卸した時「一般の方だったらどう目に留めてくれるだろう」という視点もまた外せません。新感線を担当する「演劇チーム」でも22歳以下を対象とした「ヤングチケット」などの取り組みを通じて、若い人に観てもらうための模索を始めていますし、『ゲキ×シネ』も学生向けの料金をぐっと抑えています。ヴィレッヂ全体が「ファン向け」と「一般向け」の両方の車輪で動いているんです。

※『ゲキ×シネ』…劇団☆新感線の舞台を最新のデジタルシネマの技術を使い「映画のように楽しめる作品」として映画館で上映する、新しい演劇映像のスタイル。2004年に第1作を発表して以来、これまで12作品が上映されている(2014年12月現在)。

 

エントレ、QSCで得た手応え

—現在の『エントレ』は、舞台の製作発表や公開稽古などの取材動画が多いですね。手応えはいかがですか?

森脇:基本的には僕らが面白いと思うものを選ばせていただいて撮影に行くのですが、ゲネプロなど確実に喜ばれている感覚はありますね。「どんな芝居か知りたい」という需要があるんだなって。取材依頼も多くなってきましたし。

糸永:「演劇動画の存在を広く知ってもらいたい」との思いからはじめたサイトでしたけど、漫然と「演劇ファンに情報を発信する」と言っても、なかなかキャッチしてもらえないし、求められている情報かどうかもわからないジレンマがあって。そんな中で森脇が取材に行って撮ってきた動画を出すと、そこだけアクセス数が跳ね上がる。「求められているのはそこなんだな」と。そうすると「もっと取材に行ってみよう」「動画を載せてみよう」という流れになって。

長谷川美津子さん

長谷川:私もエントレを介してイーオシバイでの取材の模様をブログで書いているんですけど、お芝居をちゃんと説明してご紹介しているので、主催者側の方もそこをすごく喜んでくださっていて、依頼も増えてきています。主催者さんが「使いたい」情報と、実際にイーオシバイを見にきてくださるお客さんの「見たい」ところが一致しているので、ここには需要があるんだなと。

森脇:実は今後の『エントレ』について、今まさに企画書を書いているところなんですが(笑)、「こんな感じだから観にいこうよ」と友だちを誘いやすくなるような、観劇へのきっかけになれるような動画ニュースを発信したいなと考えていて。我々興行をやっている会社としても、まずは観劇人口そのものを増やしていくことが重要ですし。

—第3回QSCの運営にあたっては、「参加者の未来に繋がる」と「演劇人同士が繋がる」というテーマがあったと聞きました。

森脇:「繋がる」で言えば、今回、僅差でグランプリを逃したあやめ十八番が「4回目が開催されるならこんなことをやりたい」と次回への構想をブログに書いてくれていて。リベンジしたいと思ってくれている人がいることも嬉しいですし、彼らの創作活動へも次に繋がる何かが残せたのかなと。

長谷川:ちなみに、どうも森脇は2回目を終えた段階で、自分の中でのテーマが達成されているらしくて(笑)。

山谷:そうなの?!

森脇:僕はQSCを通じて「全国のまだ知らなかった面白い劇団に出会い、その劇団の生の芝居を観に行く」という目標を持ち続けていたんですが、それは僕自身が実際に1回目、2回目で出会った団体の次回公演を現地まで観に行くことができて「あ、達成しちゃったな」と(笑)。

糸永:次のステップがあるとしたら、森脇が個人的体験で達成してしまったその面白さを、QSCの参加者と見てもらった人たちにどう上手くガイドできるか、そこでしょうね。それは参加した団体側のメリットにもなりますし。森脇の中で完結しちゃっているその面白い体験を、どう次の4回目でシステムに落とし込めるか……森脇君、僕は楽しみにしているよ!

森脇:また企画書を書きたいと思います(笑)。


今回話を伺って、ヴィレッヂの中にある「新しい人たちに出会うために」という理念が、部署を超えて会社全体で循環している印象を受けた。劇団製作のみに特化せず、観客創造のための大きな視点を常に持ち続けチャレンジすることに躊躇しないその姿勢からは、「観客の気持ちになって考える」という、この業界の人間にとって極めて基本的で、しかしつい見失いがちな大切な発想の源を教えられたような気がする。(永滝陽子)

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