NPO法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク（TA-net）が「視覚障害のお客様の観劇に関するニーズについてお話を聞く会」を開催した。当事者から見た観劇支援サービスへのニーズはどのようなものか、その会の模様をレポートする。（編集部：芳山徹）

　
演劇実験室◎万有引力+TA-net　支援研究チーム勉強会
「視覚障害のお客様の観劇に関するニーズについてお話を聞く会」
日時：11月28日(金)19～21時　
会場：東京都障害者福祉会館（2F教室）

同勉強会は、当事者である視覚障害の方を招き、具体的なニーズや感想などを伺う公開インタビュー企画。TA-netは来年1月に、演劇実験室◎万有引力の公演『身毒丸』（会場：世田谷パブリックシアター）で様々な支援サービスの実験を行う予定なのだが（文化庁「戦略的芸術文化創造推進事業」採択事業）、そのリサーチも兼ねた企画でもあり、勉強会には、同公演のスタッフ陣も参加した。

インタビューを受けたお二人は、全盲女優・美月めぐみさん（演劇結社ばっかりばっかり）、弱視の菊地ゆうこさん（トークパフォーマンス・グループ　こうばこの会）。まずは観劇前の話として「劇場に行く前に、電話して駅からのアクセスを確認する」「目印ならぬ鼻印！コンビニ特有のにおいとか、飲食店のにおいを目印に」「スマホの地図音声ナビも利用する」「曲がり角は風を感じて判断する（！）」という観劇ライフが語られた。

実際の観劇支援サービスについては、「（客席全体で）一緒に笑える・驚ける、ということが楽しいので、例えばイヤホンガイドでシーンの説明がネタバレになっていたりすると、それではつまらない」と語り、説明することだけにフォーカスせず、作品の演出に寄り添って検討して欲しいとのご意見。個別の各サービスへの見解は以下の通り。

＜観劇直前の舞台説明会について＞
・「耳で観る」感覚で観劇しているので、自分が舞台上にあがって歩き回るよりも、例えば舞台の端から端まで声を出しながら歩いてもらって、客席から「耳で確認させてもらう」方が、感覚がつかめて望ましい（美月さん）

＜イヤホン（音声）ガイドについて＞
・「そこは言わなくても！」と思うガイドも。ネタバレになっているとつまらない（菊地さん）
・左右の耳でしっかり舞台上の音を聞きたいので、イヤホンなしが理想ではある。転換後のシーンの説明などがガイドされるのだが、例えば舞台上に誰がいるのかなど、セリフで分かるような演出がなされていればガイドはいらない（美月さん）
・開演前に、キャスト紹介がそれぞれの声で流れたらよいなと思う（美月さん）

＜舞台模型について＞（お二人の意見を集約）
・全体像がつかみやすく、分かり易いので嬉しい。「百聞は一触にしかず」です
・触っても壊れない丈夫なものを。寸法は肩幅くらいが良い
・素材感や全部を再現する必要はないので、特に日常的でないもの、特殊なものがあれば、それがどのようなものかが分かるように
・併せて口頭での説明があれば、より分かり易い

最後の質疑応答では、「どんな（場内）誘導がNGで、どんな誘導が理想ですか？」という問いに対して、「それぞれの障害や状況にもよるので一概には言えないのですが、私たちはある意味『誘導してもらうプロ』なので、どうして欲しいかを一言聞いてくれれば大丈夫です！」というお答え。そのことは、『May I help you？』という声掛けが、相手にどうして欲しいのかを確認するという（マニュアル対応ではない）当たり前のコミュニケーションなのだと、改めて考えさせられました。

尚、TA-netは12月10日(水)に勉強会「演劇・舞台における字幕システムを考える」を開催する。様々な字幕システムを紹介し、良い点、改善できる点、課題などを整理するという。詳しくはこちら。

◎合わせて読みたい！
【特集：レポート】シアター・アクセシビリティ・ネットワークの取り組みについて
【特集・レポート】芸劇「視覚障害者のための舞台説明会」