世田谷パブリックシアター（東京都世田谷区）は10月28日(火)、トークセミナー『コミュニティにおける演劇の実践Vol.2』を開催した。演劇作品を観るだけではなく、地域住民が実践の主体として、演劇を活用するプロジェクトを紹介するこのトークセミナー。今回は日本国内の2劇場からスピーカーが登壇し、事例の紹介と、それぞれの理念が語られた。その模様をレポートする。（編集部：芳山徹）

えずこホール（仙南芸術文化センター）は、宮城県仙台市に南接する9市町村からなる「仙南地域広域行政事務組合」が管理運営する公共ホール。所長である水戸雅彦さんは、同ホールを単なる興業の場や、芸術の殿堂としての場ではなく、「アートを通した地域づくり、ひとづくり」を目的とした、住民参加型の文化創造施設だと紹介した。

住民劇団「えずこシアター」「AZ9ジュニア・アクターズ」や、アウトリーチ「えずこキャラバン」など、住民主体の多種多様なプログラムが紹介されたのだが、その目的を水戸さんは「社会包摂」という言葉で説明した。

「フックを沢山準備して、『自分はアートとは関係ない』と思っている人たちと繋がっていくことが大事だと常に考えています。沢山の感動を積み上げていくことで、人の心は豊かになると思うんです。それが出来ない状態=貧困と排除の中で、人は健全な生活を営むことは出来ません。そのような個人の（自立を阻害する）諸条件を、社会の問題として改善すること、これを社会包摂といいます。国の施策として十分には行われておらず、地域の公共ホールこそが取り組むべきテーマだと考えています」（画像：水戸雅彦さん）。

地域で生活する人々が、健康で、幸福で、孤立しないこと。その為の「居場所」として、そして異文化を体験できる「世界と出会う窓」として。えずこホールは社会機関の役割を担う施設だということが語られた。

後半のスピーカーは、宮崎県立芸術劇場の演劇ディレクターを務める永山智行さん。「今日は私の日々の悩みに、皆さんに相談に乗って頂きます！」と笑顔でスタートした。

「実は私自身、県の中心部からは離れたところに住んでいて、劇団も同じ状況なので、芸術劇場に対しての（物理的、心理的な）距離感を、正直感じることもあるんです。水戸さんの言われた『居場所としての劇場』は、正にその通り！とは思うのですが、広域を対象とする県の公共劇場として、どうやれば県民全体に繋がっていくことができるのか・・・」。

永山智行さんは県の芸術劇場のディレクターであると同時に、「こふく劇場」という劇団の主宰／劇作家・演出家だ。そして「こふく劇場」は宮崎県内の二つの町（門川町・三股町）の文化会館のフランチャイズカンパニーでもある。そこでは、まち歩き演劇フェスティバル「まちドラ！」や、障害者も一俳優として参加する作品づくり「みやざき◎まあるい劇場」なども行なわれているという。

「（過疎ともいえる）地域で演劇をするためには、一人一人を大事にするしかないんです。代わりなんていないですから（笑）。それぞれが抱えているものを受け入れるしかない。そのような『今あるものでどうにかする』というやり様は、先の見えないこれからの日本の、最先端の取組かもしれなくて、そこに演劇の手法というものが役に立つのではないかと感じています。想像力を存分に働かせて、戯曲を読み、書き、演じること。演劇という出会いを通して、自分の人生の物語を見つけていってくれたら。そんな風に思っています」（画像：永山智行さん）。

＜所感＞
水戸さんは「劇場の、場の持つ力」のことを、永山さんは「演劇の、物語の持つ力」のことを語った、ということだと思います。それは単純なハードとソフトの違いではなく、事物を見るときの立場の違いであって、さて劇場や公演、「演劇を活用するプロジェクト」etc．．．を運営する制作者にとっては、そのどちらの視点（パースペクティブ）も兼ね備えている必要があるのだろうと、改めて感じました。

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