藤原ちからさんによるマンハイムでの海外活動報告会が行われた1週間後の8月29日、演劇センターFは、三回目となる「海外報告会」を開催した。この日は範宙遊泳の主宰、山本卓卓さんと制作の坂本ももさんが登壇し、今年5月に招聘されたマレーシア公演『幼女X』の事例紹介が行われた。

この報告会では「聞き手」を務めた藤原さんは、同報告会の企画意図について「海外公演におけるノウハウ等の情報の共有がなされておらず、海外マーケットへの参入が広がらない状況を改善しよう」と説明した。

範宙遊泳のマレーシア公演は、今年2月のTPAM（国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2014）の「TPAMディレクション」で上演された同作品を、マレーシアにおける舞台芸術のプラットフォーム「カキセニ（kakiseni）」のディレクター、ロウ・ナイ・ユエンさんが観劇し、その場で交渉・即決。そしてTPAMからたった3か月後（！）のマレーシア公演が決定したという。

同報告会に来場されていたTPAM事務局の山下陽子さんは「5月なんてファンドレイジングが間に合わない！と思ったら、すべてカキセニが持つから大丈夫だと。ユエンさんの裁量が非常に大きく、特殊な案件だったと思います」と話す。

　

（マレーシア版『幼女X』　写真提供：範宙遊泳）
　
マレーシアでは、日本で発表した作品に英語字幕を表示して上演する「日本版」と、マレーシアの俳優のみをキャスティングし、マレーシアの演出家と共同制作（台本の翻訳から演出まで）を行う「マレーシア版」の2バージョンの上演となった。日本からの渡航者は、大橋一輝さん、埜本幸良さん（日本版キャスト）／山本さん（演出）／坂本さん（制作）／たかくらかずきさん（美術）、通訳の寺田ゆいさん。キャスト2人は1週間のみの滞在で、たかくらさんは、現地のデザイナーと協同で広告デザインを行うことも条件だった。

ギャランティ交渉について、坂本さんは「とにかく何も分からなかったので、TPAMディレクターの丸岡ひろみさんにアドバイスをもらい、日本での金額をベースとして交渉しました」と語る。「ギャランティの支払いに関してはちょっと特殊だった。宿泊費や交通費、日当のほか、ギャラもいただいた。ただギャラについては全26日間滞在した3人（山本、坂本、寺田）の分のみ。日本版公演の買い取りはできない（出演する俳優に対してはギャラは支払えない）と言われたので、劇団全体で分けて調整しました」。さらにホテルは非常に高級な施設だったといい、通訳帯同した寺田さんは「日本国内における海外アーティストのアテンドでも、こんなに待遇は良くない！」と驚いたという。坂本さんは言う「マレーシアでは、キャリアとか年齢で差をつけるようなことはありませんでした」。

マレーシア版の協同制作では、ただ言語を移し替えるだけではなく、現地の概念や社会問題に丁寧に置き換える作業だったという。また現地では「日本＝福島」というイメージが強く、現地の記者からは『幼女X』に対して単刀直入に「これは福島の話か？」と聞かれたりもしたという。協同演出を行ったアヤムさん（演出家・俳優）には、最初に「政治的な表現を扱いたいか？」と聞かれたとのこと。

このような現地でのコミュニケーションを通して、山本さんは「今回のマレーシア公演以降、自分の手の届くテリトリーでやっていくだけでは空しいし、自分の作品を『誰かの役に立つように』と考える方が健全で自然だな、と考えるようなりました」と語った。

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演劇センターFでは、今月25日(木)に「海外活動報告会vol.4番外編」として「『ルーマニア・シビウ』報告パーティ」が開催される。海外での活動情報を共有する「場」を提供する演劇センターFの活動は、アーティストや制作者の知識、モチベーションアップへと繋がり、舞台芸術の活性化を促す一助となるはずだ。ただ何より大事なのは、私たちがその情報を積極的に受け取り、そして自分のものとしてカスタマイズしていこうとする姿勢ではないだろうか。「アグレッシブな気持ちがないと得られないものがある」という藤原さんの言葉を噛み締めたい。（大澤）