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アーティストとともに歩いて『急な坂スタジオQ(きゅう)連続トーク』後編

14.09/11

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急な坂スタジオが今年5月から7月の2ヶ月間に渡り開催した『急な坂スタジオQ(きゅう)連続トーク』。9名のアーティストの稽古風景を間近で見学し、さらに彼らから直接話を聞くというこの企画で「ホスト」を務めたのは、2012年度「坂あがりスカラシップ」対象者の橋本清さんだった。3年間というスカラシップ支援期間中の昨年12月に劇団の活動休止を発表した橋本さんにとって、この企画への参加は何をもたらしたのか。後編では橋本さんと、急な坂スタジオディレクター・加藤弓奈さんへのインタビューを通して、『急な坂スタジオQ連続トーク』、そして“創造拠点”としての急な坂スタジオを見つめる。(編集部・大澤歩)

前編〜稽古という時間を共有する〜


橋本清 プロフィール

1988年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科卒業。在学中の2007年、個人ユニット「ブルーノプロデュース」を設立。劇場に捉われず、教室、喫茶店、ギャラリー、暗室などの空間で作品を発表。他者や空間に蓄積された記憶や情報を積極的に作品に取り込み、かつてあった事実(記憶)から、フィクションとしての風景を立ち上がらせるのが特徴的。2012年9月より「坂あがりスカラシップ」対象者に選出される。

創作活動再開に向けて

急な坂スタジオは今年の2月、スタジオ内の一室である和室を橋本清さんの「書斎」として提供、橋本さんのペースで創作活動ができる環境を整えバックアップした。そして今回の『急な坂スタジオQ連続トーク』実施にあたり、加藤弓奈さんは橋本さんに「ホスト」として関わってもらうことを決めた。

橋本さんが、自身のユニット「ブルーノプロデュース」のサイトで「演劇を作り続けていくための自分の体力の消耗を、公演を打つことの限界を感じてしまいました」と、活動休止に至った心境を綴ったのは、昨年末のことだ。

加藤さんは言う、「橋本さんにいろんな方の創作現場に触れてもらうことで、彼が抱えている問題は彼だけの問題ではないし、そのことにそんなに頭や心を使いすぎて創作活動を止めてしまうことはないんだよ、ということを知ってもらいたかった」。和室の提供も今回の企画も、橋本さんへのサポートの一環でもあった。

橋本さん自身もこの企画を通し、新たな一歩を踏み出したいという思いがあった。「俳優と演出家はどんな関わり方をしているのか、また、他の演出家が僕にはない言葉を持っているとき、なぜその言葉を選んだのか…そういうことに触れながら、僕自身の俳優との関わりを見つめ直し、そこからさらに、今は距離を置いている『現場』へ、というステップを踏みたいと思っています」。初回の稽古場見学終了後、橋本さんはそう語っていた。

岡田利規さん(写真左)とのトークで、ホストを務める橋本清さん(写真右)

岡田利規さん(写真左)とのトークで、ホストを務める橋本清さん(写真右) 写真提供:急な坂スタジオ
 

『無自覚』から『自覚』へ

5月にスタートし、8名のアーティストの稽古見学とトークを経て迎えた最終日の7月8日。9回目となるこの回は、これまでホストを務めてきた橋本さんが稽古とトークを担当した。稽古の場所は、橋本さんが自分自身と向き合いながら作品を創ることに取り組んできた和室だ。

この日初めて顔を合わせた4名の俳優。手渡された台本を手に演技をする俳優に、登場人物はなぜその行動をとるのか、橋本さんはテクストを掘り下げながらそのヒントとなる言葉を伝える。そして俳優から返ってくる反応をひとつひとつ確かめながら慎重に稽古を進めていく。

以前、橋本さんは「自分が稽古場で発している言葉は『無自覚』だった」と語っていた。無自覚、とは?「目の前で起こっていることをどんどん作品に取り入れて反射的に俳優達に指示することが多くて、瞬間瞬間をキャッチして即座にジャッジすることと、この先の創作活動を含めた上でじっくりと判断することのバランスというか、それらの配分が自分の中で上手くいっていなかった。そういう意味で『無自覚』だったと言ったんです」と説明する。

稽古終了後、橋本さんは「今日の稽古では、俳優が出してきたものに対して、自分のイメージしたものにどう近づけていくか、どう融合していくか、それを試してみたかった」と語った。「その場で生まれているものだけじゃなく、俳優たちがどのように動いているのか、その場をどう動かそうとしているのかを意識して見ようとした。これは、いろんなところで活動を行い、さまざまなものを蓄積してきた8名の演出家の方の現場を8回見て生まれた欲求ですね。つまり、結果だけでなくそれが起こるまでの過程を追いかけていた。そういった創作の根っこの部分をあらためて考えながら試行錯誤できる場を持てたこと、それを参加者に見てもらえたことは良かったと思います」。

『一人の演出家として、立ち止まって、取りこぼしてきたものについてだけ、ただ考えていた』という橋本さん。「再構築しようと思っていた時期に、他の演出家の作品を創る現場に触れることができた。それぞれの考えを強く浴びることは楽しかったし、『自分』というサイズを自覚する機会になった」、そう振り返った。

創造拠点の「場所」として

この企画を立ち上げるきっかけとなった急な坂スタジオの3つの課題「『稽古場』としての活用」「観客創造への取り組み」そして「アーティストサポート」に対し、加藤さんはどのような効果を感じただろうか。9回を終え、改めて加藤さんに伺った。

「本企画を実施してみて、目に見えて橋本さんの創作意欲が膨らんで行ったことは、まず大きな成果だと言えます」。そして「橋本さんを通して、個々のアーティストが、他のアーティストや、自分と急な坂(創作環境)の関わりを再び考える良い機会となりました」と評価する。

観客創造については「ハードルの高い夢」としながらも「これまで見たことの無かった公演や、パフォーマンスに足を運ぶようになった参加者がいました。ごくごく小さな一歩ですが、何かに・誰かに興味を持ってもらうために、稽古場が少しオープンになることに意味があると実感もしました」と手応えを感じているようだ。

そしてこうまとめた。

「急な坂にとっても私にとっても考えるべきことがたくさんありますが、今後とも、このような、【開く】企画を進めて行きたいな、と思っております」。


アーティストに寄り添いながら、彼らの声に常に耳を傾けている急な坂スタジオ。スカラシップ対象者である橋本さんの創作活動を全面的にサポートし、ともに問題に立ち向かおうとする姿勢から、「創造拠点」を掲げる急な坂スタジオの意志を改めて感じた。最終日、橋本さんの稽古を見守る加藤さんの優しい視線が印象的だった。

また、参加者だけで集い、その日の感想などを話すこともあったと聞いた。今回の企画から、また新しい創造の輪が生まれつつあるようだ。

アーティスト、そして観客を育て繋ぐ場所として、急な坂スタジオはより一層、重要な「場所」になっていくことだろう。


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