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稽古という時間を共有する 『急な坂スタジオQ(きゅう)連続トーク』前編

14.09/09

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横浜市にある稽古場「急な坂スタジオ」。元結婚式場だった「旧老松会館」を転用し、舞台芸術の創造拠点として2006年にオープン、現在、岡田利規さん(チェルフィッチュ)、柴幸男さん(ままごと)、矢内原美邦さん(ニブロール)など、舞台芸術を牽引するアーティスト9名がここで創作活動を行っている。この9名のアーティストの稽古風景を間近で見学し、さらに彼らから直接話を聞くという企画『急な坂スタジオQ(きゅう)連続トーク』が、今年の5月から7月に渡って行われた。この企画はどのような経緯で立ち上がり、そしてどのような効果をもたらしたのだろうか。

当レポート前編では、急な坂スタジオディレクター・加藤弓奈さんの思いと参加者の声を紹介。続く後編では2012年度「坂あがりスカラシップ(*)」対象者である演出家・橋本清さんを軸にこの企画を見つめる。(編集部・大澤歩)


『急な坂スタジオQ(きゅう)連続トーク』

■実施期間:2014年5月〜7月
■参加アーティスト:岡田利規/岩渕貞太/藤田貴大/矢内原美邦/白神ももこ/木ノ下裕一/酒井幸菜/柴幸男/橋本清 (敬称略)

(*)坂あがりスカラシップ
横浜の劇場・稽古場である、急な坂スタジオ、横浜にぎわい座(のげシャーレ)、STスポットが連携し、稽古から作品上演までをトータルサポートする若手舞台芸術家の創作支援プログラム。http://kyunasaka.jp/scholarship

3つの課題解決に向けて

「急な坂スタジオにはいくつかの課題があって、それを解決するためにできることは何か、というところからこの企画は始まったんです」。『Q連続トーク』が立ち上がった経緯について、急な坂スタジオディレクター・加藤弓奈さんはこう説明する。

急な坂スタジオの課題。それは、「『稽古場』としての活用」「観客創造」そして「アーティストサポート」の3つだった。

急な坂スタジオには、ホールと3つのスタジオがあり、稽古だけでなく作品上演やイベントなどを開催している。そのためスタジオにはアーティストだけでなく観客が訪れることも多く、観客と舞台芸術を繋ぐ場ともなっている。「でも、それでは『公演ありきの場』になってしまう。そもそもここは稽古場なので、『稽古場』そのものとして、もっと観客に身近に感じてもらうための企画ができないかと考えていました」。

また、加藤さんには「若手の批評家やこれからの観客が上手に育つ土壌がなくなりつつあるのではないか」という危機感があった。TwitterやFacebookなどで観劇の感想が飛び交う昨今、ひとりひとりが情報発信者として自由に語ることができる一方、個人の価値観によってのみ作品が評価されていくという状況に陥りかねない。「ひとつの作品を創るのにどのくらいの時間やエネルギーを費やしているのかを見てもらうことで、作品を鑑賞するときの態度や心持ちが少しだけ、変わってくると思うんです。すべての作品やお客様にとって必要とは思いませんが、稽古は『作品を創る時間』として消費されていくだけではないんです」と語る。

しかも急な坂スタジオには9名のアーティストが滞在し、9種類の考え方や作品の創り方に触れることができる。「稽古場見学を通して、未来の観客創造へと繋がればいいなと。稽古という時間を共有するということは、長期的な観点から、アーティストにも制作者にも観客にも必要だと思ったんです」。

そしてもうひとつ。2012年9月より3年間「坂あがりスカラシップ」対象者である演出家・橋本清さんが、昨年末に自身の主宰する劇団の活動を休止したことも大きかったという。『共に考え、新しいことに挑戦できるパートナー』として、アーティストに寄り添い創作活動をサポートする急な坂スタジオで、橋本さんが他の演出家の創作活動に触れる機会を設け、次へと進むきっかけをつくりたい。そんな思いが加藤さんにはあった。

急な坂スタジオが抱く3つの課題に向き合い、解決への糸口を探るべく、今回の企画はスタートした。

「言葉」をアウトプットする

この企画に参加したのは、年齢も性別も異なる7名。約1時間の稽古場見学と、その後橋本さんをホストに展開する30分程のアーティストトークに参加する。

5月9日(金)、岡田利規さんの稽古場見学で同企画はスタートした。この日は、5月から6月にドイツの都市・マンハイムで開催される演劇祭で〈世界初演〉として上演されるチェルフィッチュの新作『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』の稽古が行われていた。的確な言葉で指示を出し、俳優の特異性を引き出しながら自身が描くイメージへと近づけるべく、同じシーンを何度も繰り返す岡田さん。「新しいものを創り出そう」という気迫が稽古場に満ちあふれていた。

稽古場見学とトーク終了後、参加者はそれぞれ感じたことをメモに残す。稽古段階から作品に触れ、そしてアーティストのトークを聞くことで、作品を咀嚼し、さらに「メモ」というかたちで自分の言葉をアウトプットしていく。それを9回行うことによって、作品に対する一方向の見方ではなく、多角的に捉え理解を深めることへと繋がっていく。

参加者のひとりで劇団を主宰する木村和博さんは、「急な坂スタジオに関わるアーティストと直接触れ合えることに魅力を感じた」ことが参加動機だという。彼のメモにはたくさんの「言葉」が記されていた。

写真提供:急な坂スタジオ

参加者はそれぞれ、感想をメモに残した。写真提供:急な坂スタジオ

「語り合える場」がある楽しさ

9回の稽古場見学とトークを終え、参加者は何を感じただろうか。劇団で制作を務める垣谷文夫さんは、稽古場見学に刺激を受けた様子。「こういった企画は、2ヶ月に1度など定期的に開催してほしい」と望む。また前述の木村さんは「参加者同士、作品について語り合える場所が持てたことも楽しかった」と笑顔を見せた。それぞれ充実した時間を過ごしたようだ。


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