制作ニュース

第2回ゲスト:加藤弓奈(急な坂スタジオ・ディレクター/「中野成樹+フランケンズ」「岡崎藝術座」)

12.03/01

覚悟が決められないなら、制作じゃなくて他のことをやればいい

――制作という仕事をやっていく上で、加藤さんが大切にしていることは何ですか?

何よりもまず、その公演に関わっている人の中で一番楽しそうに過ごしていることですね。アーティストや役者の一番近くにいて、彼らが何を作っているのか、何をしてきているのかを一番知っているのが制作という存在なので、制作さんが不安そうにしてたり、すごく疲れていたり、落ち着きがなかったりすると、それはすぐに彼らに伝染してしまいます。だから、とにかく制作さんが一番楽しそうにして、この公演は楽しいんだっていうことをまず保障する立場であることがすごく大事だと思っています。あとは、瞬発力と持久力を持つこと。私自身もそうでありたいし、一緒に仕事をする人にも必ず言っていることです。

――「楽しく」あるために、何か心がけていることはありますか?

演出家とか俳優とかスタッフとか、とにかくいろんなセクションの人たちと話すようにしていますね。特定のセクションの人たちの中でみんなが同じ思考になってしまうと、どこかで行き止ってしまうので。私自身はクリエイターではないので、なるべくいろんな視点から作品を見られる存在でいたいと思っています。あとは、自分の中で「これだけはやらせてほしい」ということを必ず何か一つは演出家に提示するようにしてますね。例えば、「チケットは全部手作りにしたい」とか、「当日パンフはこういう形にしたい」とか、とにかく自分が作品に対してできる最大限のことを一つ作っておくと、それが自分自身の楽しみにもなるので。

――加藤さんのようにアーティストと良好な関係を作っていくにはどうしたらいいんでしょうか?

どうなんですかね。多分、距離感だと思うんですね。一緒に仕事しているアーティストもそうですし、私自身もそうなんですけど、相手のテリトリーに踏み込む感じがあまりないんだと思います。お互いにある程度の距離を常に保っている感じ。あとは、私が仕事をする時にいつも意識していたのは、「待つ」ということと、「聞く」ということ。自分から相手に何かを押し付けるよりは、相手から何かが出るまで待って、それをしっかりと聞く。そうすると、「こんなこと思いついたんだ」とか、「今こんなことしようと思ってるんだ」っていうアイディアを話してきてくれるんですね。だから多分、それが一番いいことなのかな。公演が決まるということは同時に時間的なゴールが決まることなので、当然気持ちも焦るし、「これとこれはここまでにないと」っていうのは常に頭の中にはあるんですけど、それでも相手を待てるかどうかっていうのが、きっとアーティストとの関係を円滑に築けるかどうかの分岐点のような気がしますね。

――劇場のスタッフとして若いアーティストたちの相談相手となってきたことが、現在の加藤さんの姿勢に繋がっているんでしょうね。加藤さんは、舞台制作者のキャリアアップに関してどのような考えをお持ちですか?

キャリアアップですか…。制作にとって「ここからスタートして、少しずつ上向きに行く」みたいに明確な段階って実はあまりないような気がしています。きっと制作者にとって一番大事なことって、「続けられること」だと思うんですよね。で、そのためには、まず「自分の足場をどこに置くか」っていうことを制作者はきちんと考えて欲しい。カンパニーに入るのか、制作会社に入るのか、あるいは公共ホールに入るのか、急な坂のように、アートNPOが運営している文化施設に入るのか、まず第一にそれを考えて欲しいですね。そして、この人、このカンパニー、あるいはこの作品と「きっちり付き合えますよ」って自分の中で覚悟を決めることが大事な気がします。で、その覚悟が決められないなら、それはそれで決して悪いことではなくて、「じゃあ制作じゃなくて他のことをやればいいんだよ」って思うんです。「とにかく何かがしたい」とか、「この人の応援がしたい」というだけでずるずる続けることだけはしないで欲しいと思いますね。

――最後に、加藤さんのこれからのビジョンを教えていただけますか?

私の野望はですね、急な坂スタジオみたいな場所を世界中に作ることです。できればサン・フランシスコがいい。

――ど、どうしてサン・フランシスコ?

坂が急(笑)。あと海が見える。そういう遊び心がないと、きっと続かない気がするんですね。それは冗談で言っているわけではなくて、今新たに必要なものは劇場ではないですし、我々ができることって、いろいろな人を集めて、「ものを作るときに一番困ることってなんだろう?」と話し、「それを解消するためにはどうしたらいいか一緒に考えましょう」と提案することだと思うんですね。そのために、人が集まれる場所を用意するのはすごく大事な仕事であって、今はここでそれが出来ているけれども、部屋が足りているわけではないし、ここだけにあっても上手なネットワークは生まれないので、こういう拠点が他にもいくつかできればすごくいいなと思います。で、移動するのはアーティストや作品じゃなくてもいいと思っていて、制作者がそれぞれの場所に移動してネットワークを組みながら、「この作品、次はここに持って行きたいから、私が先に行っておくね!」っていうくらいの軽いフットワークで、いろんな地域に制作さんがいて作品を呼ぶ。逆に、「この作品は大丈夫、あそこの劇場に行けばナントカさんという制作がいるから、このまま行けるよ」って送り出してあげられるようになると、多分カンパニーにちゃんとお金が回る仕組みもそこで生まれますし、制作者がカンパニーにべったりではなく、どこかの場所だったり地域で働くということで、作品自体の可能性もグッと広がると思うので、そういう仕組みが日本でもできるといいのになっていうのは夢としてありますね。

――そうなると、最近各所で関心が高まっている「アーティスト・イン・レジデンス」もやりやすい環境になっていきますよね。

だと思います。その劇場、その場所に「誰がいるのか」ということが、これからもっと大事になってくると思うんです。

取材・文/郡山幹生
写真/大澤歩


■加藤弓奈(かとう・ゆみな)■
80年生まれ。早稲田大学卒業。在学中からインターン生として、横浜の小劇場・STスポットで制作アシスタントを務め、そのまま職員へ。05年に館長就任。06年、急な坂スタジオの立ち上げに参加。10年4月、急な坂スタジオ・ディレクターに就任。中野成樹+フランケンズ、岡崎藝術座の制作を担当。 ナビゲーターを務める「Next舞台制作塾」は5/17(木)開講

■インフォメーション■

岡崎藝術座『アンティゴネ/寝盗られ宗介』
■作:「アンティゴネー」ソポクレース 「寝盗られ宗介」つかこうへい
■演出・美術:神里雄大
■出演:武谷公雄/鷲尾英彰/稲継美保/山縣太一(チェルフィッチュ)
■日程:4/19(木)~24(火)
■会場:STスポット
■チケット料金:3,000円 他
■公式サイト:http://okazaki.nobody.jp/

中野成樹+フランケンズ『ナカフラ演劇展』
■誤意訳・演出:中野成樹
■日程:6/7(木)~20(火)
■会場:こまばアゴラ劇場
■公式サイト:http://frankens.net/

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