制作ニュース

第1回ゲスト:三好佐智子(有限会社quinada代表/「サンプル」「ハイバイ」)

12.02/01

制作者に必要なのは「保つ」という意識

――quinadaというカンパニーについてもう少し詳しく聞きたいんですが、現在中心となっているのは三好さん、中山(静子)さん、坂田(厚子)さんの3名ですか?

はい。まだ固定給が出るほど経営規模が大きくないので「契約」という形で、その代わりそれぞれが割と自由に外部の仕事もやっています。「基本的に3人が一緒にいることに意味がある」っていうスタンスで。もともと中山から「3人でやらない?」という話がでて、それは(今後は)「1人で2劇団をやる」ではなくて「3人で7劇団をやる」というように、1人1本から適材適所へ、考え方を変えたほうがいいのでは?という彼女のアイディアでした。適材適所といえば、3人の資質は全然違います。私は「企画」「広報」をやるタイプだし、坂田は現場の「運営」「進行」、中山は「助成金」「票券」「数字一般」に強味があります。だから、3人でお互いの能力を活かして「それぞれに楽しく仕事をしましょう」と考えています。実際には劇団数を増やすことはありませんが、3人体制になってから、「サンプル」と「ハイバイ」の仕事が目の回るほど忙しくなってしまったので、今はそれぞれのスケジュールをいかに上手に調整して、その2つの劇団とほかの仕事をこなし、トータルの売上を高めていくかっていうことを考えています。

――今後はどうしていきたいですか?

海外にマーケットが存在するので「海外公演で収入を得れたら」というのが一つと、中山、坂田それぞれにやりたいことを実現するためにも、やっぱり収入を大きくしていく必要がある。だから、一つ一つの仕事のクオリティを維持するために新しい人材を育てていくっていうことが、当面の課題です。10年、20年スパンで考えることは今はちょっと出来ないですね。「クオリティを下げない」かつ、「折れない」ってことが大事だと思ってますけど。

――松井さん、岩井さんに続く次の存在は考えていない?

考えていないですね。ただ、心のどこかで探してはいますけど、単純に興味があって。

――それはあくまでも作家が基準?

はい。私はもう、そこはハッキリしてます。

――「制作」という仕事に対してのこだわりは?

「遅刻しない」「嘘をつかない」「倒れない」…ということが制作者にとって一番大事なことだと思います。あと、「保つ」っていう意識を持つことも制作者には必要ですよね。

――保つ?

例えば、容姿がすっごいキレイである必要はないんだけど、落ちていかない、衰えないようにする。体力もすごくなくてもいいけど、どんなに寝なくても倒れない。テンションもそんなに上がらなくていいから、いつも一定に「保つ」ことが重要なのではないかと。俳優は稽古場と同じテンションで舞台に上がれた時にいい演技をするとしたら、作家も同じで、例えばアゴラ劇場のテンションでパルコ劇場に臨めたら実力を発揮しやすい。だったら、周りが波風立てたり怒ったりしていて、彼らに不安を与えることが多分一番良くないことで、そういう意味では「この人は根本の、芯の部分がブレないな」っていう安心を与えることが制作者にはとても大事なことかもしれません。で、それは簡単なことではないし、私には苦手なことでもあるので、だからこそ心身ともにメンテナンスをするように努力しているのです。

――例えばどんな?

私の場合、少し自閉気味というか、毎日同じリズムで生活していないと不安定になりやすいんですね。だから、毎朝青汁を飲むとか、毎夜入浴をするとか、寝る前にストレッチをするとか、細かい自分のルールをいつ・どこでも必ず踏襲していくようにしています。それから、オフには会いたい友達と食事をして頭をリセットする。とにかく、人に迷惑をかけないように、自分のメンテナンスは自分でしていたい。仕事上、どうしても作家のリズムを優先して自分の意思では体も心もコントロールできないことが多いので、普段の自分のメンテナンスは自分でやるしかないっていうことでもあります。

――三好さんは制作者のキャリアアップについてはどんな考えをお持ちですか?

「キャリアアップ=出世」という意味で言えば、そういう志向が強い人は現場制作に向かない気がします。現場で制作をやりたいっていう人にとっては、「面白い作品を作りたい」ことを全てに(出世より)優先できることが、適正なので。それを前提としてキャリアアップの方法がどんなものかって考えると…私は制作者のはじめの段階でまず必要な要素は、「コミュニケーション能力」「センス」「体力」「合理的な判断力」「事務処理能力」「献身」で、これが成長すると「センス」「交渉力」「安定感」「マネジメント力」「財力」「社会性」に変わっていくとアバウトに考えているんですね。で、もし「出世」したいなら、その中でも特に「マネジメント力」が必要になってくるんじゃないかと思います。今私が修行中なように、「自分の現場をキープするために、人にいかに仕事をふれるか」ということが大事ですね。

――「献身」という言葉がセカンドステップになるとなくなるのが興味深いです。「献身」は初期衝動のエネルギーとして必要だけど、そこから「いかにして脱するか」が次のステップの鍵になる。

「作家を食わせる」「劇団を食わせる」ってことを実現できるぐらい能力がある人にはお金はついてくるだろうし、その劇団がダメでもどこからかヘッドハンティングされると思うんですね。「不当に奴隷的なことをさせられた」って思ってる人は本当に「不当」だったのな?と。アーティストの能力を見抜けないのは制作の責任だし、時間はかかるけど自分で結果を出してからでないと何も主張すべきではない。私の「ハイバイ」の最初のギャラは5,000円で、でも今は金額が変わっていて、それは少しずつ働く量を増やしたし、貢献を理解してくれる人たちだったからで。その5,000円は「この人たちはちゃんと形で応えてくれる」って当時感動したこともあって、今でもポチ袋ごととってあります。話はそれましたが、「献身」は必要な感性ではあるけれど、どこかで自分だけではなく相手を変えていくことができたときに、次のステップへ進めるのではないでしょうか?私は人の2倍働いているので、私より働いてないで「制作=奴隷説」を唱えている人には「四の五の言ってないで働け!」ってちょっと思います

――でも実際には、そういう状況で迷走していく制作者は少なくないですよね。

「自己実現」と「創造活動」をごちゃ混ぜにしてしまいがちですよね。そういった事に疑問をもったりしたときにquinadaの3人で話せるようになったことは、私にとってはすごく大きな出来事でした。中山も坂田もクレバーだし、迷いがない。私がゴチャゴチャと考えていることを一刀両断してくれる、句読点みたいな人たち。話を聞きあうのはお互い様なので、3人とも制作寿命はかなり延びてるんじゃないかな?人は人にしか救えないと思うので、横の繋がりが大事だなあと、ひしひしと思いますね。

取材・文/郡山幹生
写真/大澤歩


■三好佐智子(みよし・さちこ)■
79年生まれ。早稲田大学卒業後、コンサルティング企業、外資系化学企業広報部で勤務。04年有限会社quinada(きなだ)設立。 スロウライダーの制作を経て、07年より松井周(サンプル)、岩井秀人(ハイバイ)を担当。10年より庭劇団ペニノの海外公演も担当。 今春開講の「Next舞台制作塾」第1期でナビゲーターを務める。

■インフォメーション■

サンプル 『女王の器』
■作・演出:松井周
■出演:古舘寛治/古屋隆太/奥田洋平(以上、サンプル・青年団)/野津あおい(サンプル)/岩瀬亮/羽場睦子/稲継美保/川面千晶/菊池明明/とみやまあゆみ/師岡広明
■日程:2/17(金)〜26(日)
■会場:川崎市アートセンター アルテリオ小劇場
■チケット料金:3,500円 他
■公式サイト:http://www.samplenet.org/

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